情緒学級で子どもと過ごしていると、活動や場面の切り替えがうまくいかないことがあります。
授業が始まっても遊びをやめられない。休み時間が終わっても教室に戻れない。次の課題を示しても、なかなか動き出せない。予定が変わると混乱し、その場から動けなくなる。
このような姿が続くと、教師は「どう声をかければ動けるのだろう」「どこまで待てばよいのだろう」と悩みます。
しかし、切り替えが難しい理由は、子どもによって異なります。
今の活動を続けたい場合もあれば、次の活動に不安を感じている場合もあります。何をすればよいか分からないことや、疲れや感覚的な負担が影響していることもあります。
大切なのは、すぐに行動を変えさせようとすることではありません。
まずは、子どもが切り替えのどこで詰まっているのかを観察し、動きやすくなる条件を探していくことが支援の出発点になります。
切り替えのどこで難しさが生じているかを見る
一口に「切り替えが苦手」といっても、難しさが表れる部分はさまざまです。
例えば、次のように分けて考えることができます。
- 今取り組んでいる活動を終えることが難しい
- 道具を片付けたり、場所を移動したりすることが難しい
- 次の活動を始めることが難しい
- 予定や方法の変更を受け入れることが難しい
授業では切り替えられるものの、休み時間や好きな活動からは切り替えにくい子どももいます。
反対に、遊びから授業には移れるものの、課題の内容が変わると動けなくなる子どももいます。
また、全く切り替えられないように見えても、教師と一緒なら動ける、道具を出すところまではできる、数分待つと自分から動き出せるなど、すでにできている部分があるかもしれません。
支援を考える際は、できていないことだけを見るのではなく、どの条件ならできるのかを見つけることが重要です。
できている部分を支援の入口にすると、無理なく次の行動へつなげやすくなります。
切り替えが難しい背景を考える
切り替えが難しいときには、その行動の背景を考えます。
大まかには、次のような可能性があります。
- 今の活動が楽しく、まだ続けたい
- 次の活動が難しそうで不安
- 失敗したり注意されたりすることを避けたい
- 次に何をすればよいか分からない
- どこまで取り組めば終わりなのか分からない
- 急な予定変更を受け入れにくい
- 疲れや空腹、騒音などで余裕がなくなっている
- 気持ちが高ぶり、すぐには動けない
実際には、複数の理由が重なっていることもあります。
「好きなことを続けたいのだろう」「次の活動が嫌なのだろう」と決めつけるのではなく、最初は仮説として捉えます。
例えば、次の活動への不安が影響していると思った場合は、手順を細かく示したり、教師と一緒に始めたりして反応を見ます。
それで動きやすくなれば、見通しや不安が切り替えに影響していた可能性が高まります。
反対に、手順を示しても変化がない場合は、別の要因を考える必要があります。
見立てを作ることが難しい場合は、一人で抱え込む必要はありません。
同僚や特別支援教育コーディネーター、管理職などに相談し、複数の大人で子どもの姿を見ることも有効です。
【関連記事】情緒学級担任が同僚と関係を作るには?相談しやすいチームを作る考え方
「教師が示したか」と「子どもができそうだと思えたか」を分ける
切り替えが難しい子どもへの支援では、見通しを示すことが基本になります。
ただし、予定表を提示したり、言葉で説明したりしただけで、見通しを持てたとは限りません。
確認したいのは、次の二つです。
- 教師が活動の流れやゴールを具体的に示しているか
- 子ども本人が内容を理解し、自分にもできそうだと感じているか
教師が「国語が終わったら算数です」と伝えていても、子どもが国語の何をどこまで行えば終わるのか理解していなければ、十分な見通しにはなりません。
また、やることを理解していても、「難しそう」「一人ではできない」と感じていれば、次の行動に移りにくくなります。
授業や活動の前には、必要に応じて次の点を具体的に示します。
- 何をするのか
- どの順番で取り組むのか
- どこまで行えば終わりなのか
- どれくらいの時間がかかるのか
- 困ったときは誰に助けを求められるのか
見通しの示し方や授業の組み立て方については、別の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事1】情緒学級で子どもに見通しを持たせる支援|予定・ゴール・困った時の動き方を示す
【関連記事2】情緒学級の授業はどう回す?45分を安定させる基本テンプレート
切り替えを助ける基本的な支援
切り替えが苦手な子どもに対しては、理由を見立てる前段階として、基本的な環境調整を行うことも重要です。

活動の順番を見える形で示す
一日の予定や授業の流れを、言葉だけでなく文字、写真、絵、カードなどで示します。
すべての予定を一度に示すと情報量が多くなりすぎる子どもには、「今やること」と「次にやること」の二つだけを示す方法もあります。
終わりを具体的に示す
「終わったら次に行こう」と言われても、何をもって終わりとするのか分からなければ動けません。
「この問題を3問解いたら終わり」「タイマーが鳴ったら片付ける」など、終了の条件を具体的にします。
事前に予告する
突然「終わりです」と伝えるよりも、5分前、3分前、1分前など、段階的に予告した方が切り替えやすい場合があります。
タイマーや視覚的なカウントダウンを使う方法もあります。
ただし、カウントダウンの声かけが増えることで、かえって焦ったり不安になったりする子どももいます。
本人の反応を見ながら、予告の回数や方法を調整します。
次の行動の最初の一歩を小さくする
「算数を始めよう」ではなく、
- 教科書を出す
- ノートを机に置く
- 1問目を教師と一緒に読む
など、最初にすることを小さく示します。
活動全体を考えると難しく感じる子どもでも、最初の一歩が明確になると動き出せることがあります。
選べる部分を用意する
すべてを子どもの希望どおりにする必要はありませんが、選べる部分を用意することは有効です。
例えば、
- 鉛筆とペンのどちらを使うか
- 一人で始めるか、教師と一緒に始めるか
- どちらの問題から取り組むか
- 机と別の場所のどちらで取り組むか
など、活動の目的を変えない範囲で選択肢を示します。
自分で選べることが、行動を始めるきっかけになる子どももいます。
今の活動を再開できるようにする
工作や絵、遊びなどを途中でやめにくい子どもには、「後で続けられる」と分かる仕組みを作ります。
例えば、
- 作品を置いておく場所を決める
- 途中の状態を写真に撮る
- 次に取り組む場所に印を付ける
- 再開できる時間を予定表に示す
といった方法があります。
子どもにとって、活動を終えることが「取り上げられること」や「二度とできなくなること」になっている場合があります。
安心して中断できるようにすることも、見通し支援の一つです。
【関連記事】情緒学級で叱らずに済む関わり方|環境づくりと見通しの持たせ方
好きな活動を続けたい場合の支援
好きな活動に集中しており、終えることが難しい場合は、その興味関心を支援に生かすことができます。
例えば、虫が好きな子どもであれば、計算問題や音読教材の導入に虫を題材として取り入れます。
最初の問題は虫の数に関する計算にし、その後に通常の計算問題へ少しずつ移る方法も考えられます。
取り組んだ後に昆虫シールを選べるようにするなど、本人の好きなものを活動の中に織り交ぜることもできます。
重要なのは、好きなものだけで授業全体を成立させ続けることではありません。
興味関心を活動への入口として使いながら、どの程度であれば一般的な課題にも取り組めるのかを観察します。
また、好きな活動を先に行うか、課題の後に行うかは、子どもによって異なります。
好きな活動を先に行うことで安心して動ける子どももいれば、先に行うと終了できなくなり、かえって切り替えが難しくなる子どももいます。
次の点を観察しながら決めます。
- 先に行うと、その後の活動に移りやすいか
- 先に行うと、終わらせることが難しくならないか
- 短時間で終了できる活動か
- 活動の終わりを本人が理解できるか
シールやスタンプなどの外から与える報酬だけでなく、自分で選べること、得意な問題から始めること、大人と一緒に取り組めること、できた実感を持てることも、行動を起こしやすくする要素になります。
活動の途中や終了時には、子どもができたことを具体的に伝えます。
「えらいね」だけではなく、
「タイマーが鳴った後に、自分で片付けを始められたね」
「最初の1問を一緒にやったら、その後は自分で進められたね」
と、できた行動を具体的に認めることが大切です。

次の活動を避けたい場合の支援
次の活動への不安や抵抗感が強く、切り替えられない場合は、何が負担になっているのかを考えます。
例えば、次のような可能性があります。
- 問題が難しすぎる
- 一人で取り組むことが不安
- 失敗することが怖い
- 手順が分からない
- ゴールが見えない
- 集団の中に入ることが負担
- 過去に嫌な経験があった
課題全体が大きく見えている場合は、手順を細かく分けます。
「プリントを全部やる」のではなく、
- 名前を書く
- 1問目を教師と一緒に読む
- 1問だけ解く
- できたところを確認する
というように、小さな段階に分けて示します。
初めのうちは、すべて終わらせることよりも、活動に入れたことや途中まで取り組めたことを認めます。
大きな不安を一度の支援ですべて取り除くことは難しいものです。
これは大人も同じです。
取り組むべき仕事の全体像が見えず、何をいつまでに終わらせればよいか分からなければ、取りかかる意欲は下がります。
子どもに起きていることも、構造としては似ています。
どこで詰まっているのかを見つけ、その部分だけを小さくすることで、前に進みやすくなることがあります。
【関連記事】スモールステップとは何か|できないことを少しずつできる形にする
子ども本人からも情報を得る
子どもの行動を観察するだけでなく、本人の感じ方を確認することも大切です。
ただし、動けなくなっている最中や、気持ちが高ぶっているときに理由を問い詰めても、うまく答えられないことがあります。
落ち着いた後に、次のように尋ねます。
- 何が難しかった?
- どこが嫌だった?
- 一人でやるのと一緒にやるのでは、どちらがよい?
- 何があればできそう?
- どこまでならできそう?
言葉で説明することが難しい場合は、
- 「難しい」「分からない」「疲れた」などのカードを使う
- 絵や写真を見せる
- 選択肢から指差しで選んでもらう
といった方法もあります。
本人の答えだけで原因を決めることはできませんが、教師の観察と組み合わせることで、見立ての材料が増えます。
【関連記事】情緒学級の関係性づくり|できたことを一緒に喜ぶことから始める
動けないときは、刺激を増やさず待つこともある
子どもが動けないとき、教師は何度も声をかけたり、説得したりしたくなります。
しかし、声を重ねるほど負担が高まり、さらに動けなくなる場合もあります。
安全が確保されており、声かけを増やすことで状態が悪化しそうな場合は、刺激を増やさずに待つことも一つの支援です。
授業中であれば、近くで様子を確認しながら、いったん他の子どもの支援に回ることもあります。
ただし、待つことと放置することは異なります。
様子を確認しながら、再び活動に戻れるタイミングと小さな入口を用意します。
例えば、
- 道具を出すところだけ一緒に行う
- 1問だけ取り組む
- 見学から参加する
- 別の方法で同じ学習目標に取り組む
といった形で、戻りやすい道を作ります。
毎回、動かなければ課題そのものがなくなるという結果になると、切り替えの難しさが固定化する場合もあります。
無理に行動を強制しないことと、何もしなくてよいことにすることは別です。
自傷、他害、飛び出しなどの危険がある場合は、切り替え支援よりも安全確保を優先します。
【関連記事】情緒学級で問題行動をどう見るか|前後関係から見立てを作るポイント
特別な行事では、経験そのものを見通しにする
入学式や卒業式、集会など、普段とは異なる行事では、言葉や予定表だけでは十分な見通しを持てないことがあります。
可能であれば、事前に実際の場所でリハーサルを行います。
私は入学式の前に、保護者と一緒に学校へ来てもらい、会場への入場、座席の確認、当日そばにつく職員との顔合わせ、退場までの流れを簡単に確認したことがあります。
一度経験しておくことで、本番の不安が軽くなる子どももいます。
現地でのリハーサルが難しい校外学習などでは、昨年度の写真や施設の写真を使って、当日の流れを確認する方法があります。
- どのような場所なのか
- バスや電車のどちらで移動するのか
- どれくらい時間がかかるのか
- 何時ごろに何をするのか
- 誰と行動するのか
などを事前に確認しておくと、不安を減らしやすくなります。
校外学習などでの詳しい支援については、別の記事でまとめます。
【関連記事】情緒学級担任と交流学級担任の連携|予定・様子・所見をどう共有するか
記録をもとに支援を改善する
切り替えが難しかった場面では、簡単な記録を残しておくと、次の支援を考えやすくなります。
記録する項目は多すぎなくても構いません。
例えば、次のような点を記録します。
- 直前に何をしていたか
- 次に何をする予定だったか
- 事前の予告や予定の提示があったか
- 子どもがどのような様子だったか
- 大人がどのような対応をしたか
- 何分ほどで切り替えられたか
- 切り替えた後に何ができたか
「次の活動が嫌だった」と断定するのではなく、
「手順が分からず不安だった可能性があるため、次回は手順表を示す」
というように、仮説と次の手立てを記録します。
そのうえで、同じような場面で手立てを試し、反応を確認します。
大まかな流れは、次のようになります。
- 活動の流れやゴールを示す
- 切り替えが難しい場面を観察する
- 背景について仮説を立てる
- 有効だと思われる手立てを試す
- 子どもの反応を記録する
- 手立てを改善する
授業や日常生活では、毎日何かしらの観察ができます。
一度で正解を見つけようとせず、小さく試して調整することが大切です。

子どもの姿を記録するポイントについては、別の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事1】情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法
【関連記事2】情緒学級で子どもの姿を記録するには?見立てにつながる簡単メモの残し方
続けられる支援を選ぶ
切り替えへの支援は、数日で結果が出るとは限りません。
一時的に複雑な支援を行うよりも、担任や関係職員が無理なく続けられる方法の方が、子どもの安心につながります。
手立てや対応方針が頻繁に変わると、子どもは次に何が起こるのか分かりにくくなります。
大人同士の対応がそろわず、次年度への引き継ぎも難しくなります。
完璧な支援を目指すのではなく、
- 続けられるか
- 他の職員でも再現できるか
- 子どもが理解できるか
- 少しずつ支援を減らしていけるか
という視点で手立てを選びます。
子どもの変化が、教師の支援によるものか、本人の発達によるものかを完全に分けることは困難です。
実際には、教育的な関わりと子ども自身の発達が重なり合って、成長として表れることが多いでしょう。
大切なのは、何が子どもを成長させたのかを断定することではありません。
どのような条件なら動きやすかったのかを見つけ、関係する大人が再現できる形に整えていくことです。
まとめ
切り替えが難しい子どもへの支援では、動かないことを問題として捉えるだけでは十分ではありません。
まずは、
- 切り替えのどこで詰まっているのか
- 今の活動を終えにくいのか
- 次の活動を始めにくいのか
- 見通しや不安、疲れなどが影響していないか
を観察します。
そのうえで、流れや終わりを見える形で示し、最初の一歩を小さくし、必要に応じて興味関心や選択肢を取り入れます。
すぐに動かすことだけが支援ではありません。
刺激を増やさずに待つことや、活動へ戻るための小さな入口を用意することも支援になります。
一度で正しい方法を見つけようとせず、観察、仮説、実行、記録、改善のループを無理のないペースで回していきましょう。