特別支援学級の担任になると、
「個別の教育支援計画」
「個別の指導計画」
という、よく似た名前の書類を扱うことになります。
初めて見ると、
「何が違うの?」
「どちらに何を書けばいいの?」
「そもそも、何のために2種類あるの?」
と迷うこともあると思います。
私自身は実務上、かなり単純化して、
個別の教育支援計画=支援全体の骨子
個別の指導計画=学校での具体案
と考えると整理しやすいと感じていました。
もちろん、これは制度上の正式な定義ではありません。
ただ、個別の教育支援計画で本人や保護者の願い、これまでの支援、関係機関とのつながりなどを広く確認し、目の前の子どもの実態を見ながら、学校で何を目標にどのような指導を行うのかを個別の指導計画へ具体化していく。
大まかな関係は、このように捉えると分かりやすいと思います。
なお、現在の小学校学習指導要領では、特別支援学級に在籍する児童については、個別の教育支援計画と個別の指導計画の両方を作成し、効果的に活用することが示されています。詳しく確認したい方は、文部科学省の 「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」 や「個別の教育支援計画と個別の指導計画」を参照してください。
この記事では、2つの計画の違いと関係を整理しながら、学校現場ではどのように使えばよいのかをまとめます。

個別の教育支援計画と個別の指導計画は何が違う?
最初に、大きな違いを整理します。
| 個別の教育支援計画 | 個別の指導計画 | |
|---|---|---|
| 主な視点 | 子どもの支援全体 | 学校での具体的な指導 |
| 時間の見方 | 長期的 | 現在の学校生活・指導に近い |
| 関わる人 | 本人・保護者・学校・医療・福祉など | 主に学校の教師・関係職員 |
| 主な内容 | 願い、支援目標、支援内容、関係機関との連携など | 実態、指導目標、指導内容・方法、評価など |
| 実務上のイメージ | 支援をつなぐ | 指導を具体化する |
一番大きな違いは、どのくらい広い範囲を見る計画なのかです。
個別の教育支援計画では、学校の授業だけを見るわけではありません。
家庭での生活。
これまで受けてきた支援。
本人や保護者の願い。
医療や福祉などの関係機関。
進学やその後も含めた長期的な支援。
こうした情報をつなぎながら、その子をどのように支えていくのかを考えます。
一方、個別の指導計画では、その情報や現在の実態を踏まえて、
「学校で何を目標にするのか」
「どのような指導を行うのか」
「どのような手立てを使うのか」
「その結果どうだったのか」
を、より具体的に整理します。

個別の教育支援計画とは?
個別の教育支援計画は、子どもを長期的・継続的に支えていくための計画です。
学校生活だけではなく、家庭や地域での生活、医療・福祉などの関係機関とのつながりも含めながら支援を考えます。
文部科学省では、乳幼児期から学校卒業後までを見通し、教育・医療・福祉等の関係者が情報を共有しながら、教育的支援の目標や内容、役割分担などを整理する計画として位置付けています。
【参考:文部科学省「特別支援教育について・個別の教育支援計画」】
実際の様式は学校や自治体によって異なりますが、
- 本人の願い
- 保護者の願い
- 得意なことや苦手なこと
- これまでの支援
- 学校での支援
- 医療・福祉等との関わり
- 合理的配慮
- 今後の支援目標
などが整理されることがあります。
診断名や医療情報が記載されている場合もあります。
ただし、診断や医療情報を記録すること自体がこの計画の目的ではありません。
大切なのは、それらも含めた情報を必要に応じてつなぎながら、
「この子を長期的にどう支えていくのか」
を共有できる状態にすることです。
私自身は、担任として判断に迷ったときや、
「これまでどのような支援を受けてきたのか」
「保護者は何を大切にしているのか」
「学校以外にどのような人が関わっているのか」
を確認したいときに、個別の教育支援計画へ戻ることがありました。
特別支援学級担任は、自分一人ですべての支援を行うわけではありません。
必要な人や場所へ子どもをつなぐことも重要な役割です。
関係機関の情報についても、「担任が全部対応しなければならない」と考えるのではなく、誰と相談し、誰と連携すればよいのかを知るための情報として見ると分かりやすいと思います。
この「担任はつなぐ仕事」という考え方については、別の記事で詳しくまとめています。
-
-
情緒学級担任の役割とは?|子ども・保護者・学校をつなぐ仕事
今回は、情緒学級担任の役割についてまとめます。 情緒学級の担任には、授業をすること、子どもと関係を作ること、教室環境を整えること、保護者と連携することなど、さまざまな仕事があります。 その中でも、特に ...
続きを見る
個別の指導計画とは?
個別の指導計画は、子どもの実態に合わせて、学校でどのような指導を行うのかを具体化する計画です。
文部科学省は、
一人ひとりの指導目標、指導内容及び指導方法を明確にする
ために学校で作成するものとして整理しています。
【参考:文部科学省「個別の教育支援計画の参考様式・個別の指導計画について」】
実際の学校現場では、
現在どのような姿が見られるのか。
何を目標にするのか。
そのために教師は何をするのか。
実践してみてどうだったのか。
次は何を変えるのか。
といったことを整理します。
私は日々の授業や生活場面で支援を考えるときには、個別の教育支援計画よりも、個別の指導計画に触れる機会の方が多くありました。
こちらの方が、目の前の子どもの姿や日々の支援と直接つながりやすいからです。
ただし、個別の指導計画は、
「年度初めに書いて提出したら終わり」
という書類ではありません。
子どもの姿は変わります。
こちらがよいと思って考えた支援が、実際にはあまり機能しないこともあります。
反対に、想定していなかった小さな工夫が非常にうまくいくこともあります。
そのため、
実態を見る
→ 目標を考える
→ 手立てを試す
→ 記録する
→ 評価する
→ 必要なら見直す
という往復が重要になります。
目標や手立てをどのように考えればよいのかについては、別の記事で具体例まで含めて詳しく解説しています。
-
-
情緒学級で子どもの目標をどう立てる?個別の指導計画を日々の支援につなぐ方法
情緒学級では、子どもの実態に応じて個別の指導計画を作成します。文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」でも、特別支援学級に在籍する児童について、個別の教育支援計画・個別の指導計 ...
続きを見る
個別の教育支援計画と個別の指導計画は上下関係ではない
ここは少し注意したいところです。
冒頭で、
教育支援計画=骨子
指導計画=具体案
と書きました。
しかし、
「まず教育支援計画を完成させて、それをそのまま細分化すれば指導計画になる」
という単純な上下関係ではありません。
個別の教育支援計画は、個別の指導計画を作る際の重要な材料になります。
文部科学省の資料でも、個別の教育支援計画は、指導内容や指導方法を決めるための材料になると説明されています。
ただし、それだけでは個別の指導計画は作れません。
今年度の子どもの姿も見る必要があります。
前年度には必要だった支援が、今年度には必要なくなっていることもあります。
逆に、これまで目立たなかった困りが、新しい学年や環境になって初めて見えてくることもあります。
だから私は、
個別の教育支援計画や前年度までの情報
+
今、目の前にいる子どもの実態
を合わせて考え、その上で個別の指導計画へつなげるイメージを持っていました。
過去の資料は重要です。
しかし、過去の資料だけで現在の子どもを決めるわけではありません。
「これまでどうだったか」と「今どうなのか」の両方を見ることが大切です。
2つの計画は実態把握・記録・評価とつながっている
個別の教育支援計画と個別の指導計画は、それぞれ独立した書類ではありません。
日々の実践まで含めると、私は次のようにつながっていると考えています。
個別の教育支援計画・前年度までの情報
+
今年度の実態把握
↓
個別の指導計画
↓
実践
↓
記録
↓
評価・見直し
↓
必要に応じて計画を更新する

例えば、前年度の資料に、
「予定変更が苦手」
と書かれていたとします。
今年度の子どもの姿を観察すると、
「予定変更そのものが難しいのではなく、変更後に何をすればよいのか分からないと動けなくなる」
という姿が見えてくるかもしれません。
そうであれば、
「予定変更に慣れる」
といった抽象的な目標ではなく、
「変更後の予定を確認し、次の活動へ移る」
というように、現在の姿に合わせて目標や手立てを考え直すことができます。
こうした支援を作るために重要なのが、実態把握と日々の記録です。
実態把握については、
情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法
日々の記録については、
情緒学級で子どもの姿を記録するには?見立てにつながる簡単メモの残し方
で詳しく紹介しています。
記録を取る目的は、書類を増やすことではありません。
日々見えてきた子どもの姿を残し、
「この手立ては機能しているのか」
「目標は現在の実態に合っているのか」
「次に何を変えればよいのか」
を考える材料にすることです。
この記録が、個別の指導計画を更新するときにも役立ちます。
個別の教育支援計画は誰と共有する?
個別の教育支援計画には、本人や家庭の情報、支援の経緯、関係機関についての情報など、多くの個人情報が含まれます。
そのため、当然ながら取扱いには注意が必要です。
一方で、
個人情報だから誰にも見せない資料
というものでもありません。
そもそも個別の教育支援計画には、学校・家庭・医療・福祉等の関係者が必要な情報を共有し、長期的な支援をつなぐ役割があります。
文部科学省も、本人や保護者の意向・同意を踏まえた関係機関との情報共有や、進学先への適切な引継ぎの重要性を示しています。
【参考:文部科学省「個別の教育支援計画の作成・活用・引継ぎについて」】
実際に誰と、どの範囲まで、どの方法で共有するのかは、学校や自治体の個人情報管理のルールにも従います。
担任個人の判断で資料を自由に持ち出したり共有したりするものではありません。
ここで重要なのは、
「誰にも見せない」か「全員に全部見せる」かの二択ではない
ということです。
必要な人が、必要な情報を共有できるようにする。
そのための計画でもあります。
年度初めは、2つの計画をどう読めばよい?
初めて担任した子どもの資料を見ると、かなり多くの情報が書かれていることがあります。
だからといって、4月の最初からすべてを完璧に覚える必要はありません。
私はまず、
- 本人や保護者が大切にしていること
- 好きなこと・得意なこと
- 苦手なことや避けた方がよい関わり
- 前年度までに機能していた支援
- 今年度すぐに必要になりそうな情報
など、子どもと実際に関わるときに影響が大きい情報から確認するようにしていました。
そして、実際に子どもと過ごしながら、
「この情報は今年度も当てはまる」
「ここは少し変わっている」
「こういう姿もあるのか」
と更新していきます。
この部分を詳しく書き始めると、それだけで一つの記事になるため、年度初めの資料の読み方については別記事にまとめています。
-
-
個別の教育支援計画・指導計画を読むときのポイント|子どもと保護者理解につなげる
今回は、個別の教育支援計画・個別の指導計画の読み方について書いていきます。 個別の教育支援計画や個別の指導計画は、作成することに目が向きやすい書類です。 もちろん、書くことも大切です。 しかし、実際の ...
続きを見る
この記事では、最初から資料を隅々まで読むのではなく、本人・保護者の願い、支援経緯、実際の支援に影響する情報から確認する考え方を詳しく紹介しています。
「違い」が分かったら、次は日々の支援につなげる
個別の教育支援計画と個別の指導計画は、どちらも重要な書類です。
ただ、書類そのものをきれいに完成させることが最終目的ではありません。
子どもの姿を理解する。
本人や保護者の願いを確認する。
これまでの支援を知る。
現在の実態を見る。
目標を決める。
支援を試す。
記録する。
見直す。
その流れをつなぐために、2つの計画があります。
「教育支援計画と指導計画の違いが分かったので、次は実際に何を目標にして、どのような手立てを考えればよいのか知りたい」という場合は、個別の指導計画の記事へ進んでください。
-
-
情緒学級で子どもの目標をどう立てる?個別の指導計画を日々の支援につなぐ方法
情緒学級では、子どもの実態に応じて個別の指導計画を作成します。文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」でも、特別支援学級に在籍する児童について、個別の教育支援計画・個別の指導計 ...
続きを見る
実際に整理したい方のために「支援設計ワークブック」も用意しています。
まとめ|支援全体をつなぐ計画と、学校での指導を具体化する計画
個別の教育支援計画と個別の指導計画は、名前は似ていますが役割が異なります。
かなり単純化して整理するなら、
個別の教育支援計画は、本人・保護者・学校・関係機関などを長期的につなぐ計画。
個別の指導計画は、目の前の子どもの実態に合わせて、学校での目標や指導方法を具体化する計画。
と考えると分かりやすいと思います。
私は実務上、
支援全体の骨子を確認するなら個別の教育支援計画。
目の前の指導を考えるなら個別の指導計画。
という感覚で使っていました。
ただし、この2つだけで支援が完成するわけではありません。
過去の資料を確認し、現在の子どもの姿を見て、支援を試し、記録し、また見直す。
その繰り返しの中で、計画も少しずつ生きたものになっていきます。
個別の指導計画を、日々の支援へ実際に落とし込むところまで整理したい方には、子どもの姿から目標・手立て・記録・見直しまでを一つの流れで整理できる書き込み式PDFも用意しています。
-
-
情緒学級の支援設計ワークブック|子どもの姿から目標・手立て・記録・見直しまで
情緒学級で子どもを支援していると、 「この子には、どんな目標を立てればよいのだろう」 「支援を考えて実践しているけれど、これで合っているのか分からない」 「記録は取っているけれど、その後の支援の見直し ...
続きを見る
本ワークブックは、特定の支援方法をそのまま子どもへ当てはめるものではなく、目の前の子どもの姿を整理し、その子に合った支援を考えるための補助ツールとして作成しています。