情緒学級では、子どもの姿を日常的に記録しておくことが大切です。
記録は、個別の教育支援計画や指導計画、保護者への説明、校内での情報共有など、さまざまな業務の土台になります。
ただし、毎回きれいな文章を書いたり、詳しい記録を作ったりする必要はありません。
まずは、その日に見られた子どもの姿を、30秒から1分程度で簡単に書き残すところから始めれば十分です。
この記事では、情緒学級担任が無理なく続けられる、簡単なメモの残し方を紹介します。
記録は学校内で完結させる
子どもの姿を記録する媒体は、原則として学校内で管理できるものを選びます。
ここでいう「持ち歩けるもの」とは、教室や職員室など、校内で必要なときにすぐ使えるという意味です。
子どもの発言や行動、家庭状況などが書かれた記録には、個人情報が含まれます。そのため、記録用のノートやデータを学校外へ持ち出すことを前提にしてはいけません。
持ち帰った記録を紛失したり、私物端末や個人のクラウドサービスに保存したりすると、情報漏えいにつながる可能性があります。
大切なのは、慎重に持ち運ぶことではなく、そもそも持ち出す必要が生じないように仕事を組み立てることです。
記録や整理は、できる限り学校内で完結させます。
教材研究や教具のアイデア集めなど、子どもを特定できる情報を含まない作業は別です。ただし、特定の子どもの実態や発言、家庭状況などを扱う場合は、学校外へ出さないことを原則にしましょう。
具体的な管理方法については、勤務校や自治体の情報管理ルールにも従ってください。
手書きと電子媒体はどちらでもよい
記録は、手書きでも電子媒体でも構いません。
大切なのは、次の条件を満たしていることです。
- 必要なときにすぐ記録できる
- 情報を一か所に集約できる
- 学校内で安全に管理できる
- 後から見返しやすい
個人的には、ノートや予定帳などの手書き媒体がおすすめです。
すぐに開いて書けるうえ、追記もしやすく、教室と職員室の間でも扱いやすいからです。普段から持ち歩いている週予定表や予定帳があれば、その余白や裏面を使っても構いません。
記録専用の立派なノートを新しく用意する必要はありません。
実際、私自身も記録専用のノートを作ることはほとんどなく、普段使っているノートや予定帳に簡単なメモを残していました。
必要な情報だけを後から正式な記録や電子データに移していました。
その場のメモは、完成した記録ではありません。後の見立てや情報共有につなげるための材料です。
まずは一日に一件か二件から始める
記録を始めるときに、全員分を毎日詳しく書こうとする必要はありません。
最初は、一日に一件か二件、気になった場面を残すところから始めます。
重要なのは、量よりも習慣化です。
毎日少しずつ書くことに慣れてくると、子どもの姿を具体的に見る力も少しずつ身についていきます。
ただし、困った場面や目立つ子どもの記録だけに偏らないように注意します。
週末などにざっと見返し、
「特定の子どもの記録ばかりになっていないか」
「荒れた場面だけを拾っていないか」
と確認するとよいでしょう。

印象ではなく、具体的な事実を書く
子どもの姿を記録するときは、できるだけ具体的な事実を書きます。
例えば、
「頑張っていた」
「集中していた」
「荒れていた」
といった表現だけでは、その場を見ていなかった人には詳しい様子が伝わりません。
「頑張っていた」と感じたのであれば、なぜそう感じたのかを考えます。
例えば、次のような姿があったのかもしれません。
- 10分間、一人でプリントに取り組んでいた
- 難しい問題に3回続けて挑戦していた
- 途中で手が止まっても、声をかけると再開できた
- お手本を見ながら、文字を丁寧になぞっていた
担任の印象や評価の根拠となった、実際の行動を残すことが大切です。
子どもが発した言葉も、可能な範囲でそのまま記録します。
大人には意味が分からない言葉でも、子どもにとっては重要な意味を持っている場合があります。後から似た場面の記録と照らし合わせることで、意味が見えてくることもあります。
「いつ・何をして・どうなったか」を書く
簡単なメモでは、最低限、次の点を押さえます。
- いつ
- どこで、何をしていたか
- 直前に何があったか
- 本人が何をしたか、何と言ったか
- その後どうなったか
すべてを文章にする必要はありません。
例えば、次の程度でも十分です。
Aくん・国語
音読3分→書き取り10分
一人でもくもく。文字が丁寧。
これだけでも、
- 国語の時間だった
- 音読の後に書き取りへ移った
- 10分程度一人で取り組めた
- 文字を丁寧に書けていた
という情報が残ります。
困った場面についても同様です。
Bさん・昼休み
友達とのカルタで負ける→泣いて動けなくなる
切り替えまで約15分
このように書けば、いつ何が起こり、その後どのような状態になったのかが分かります。
【関連記事】情緒学級の支援|まず子どもの何を見るのか
事実と担任の気付きを分ける
メモを取っていると、
「負けた後の約束が必要かもしれない」
「課題が難しすぎたのではないか」
「休み時間の出来事が影響しているのではないか」
といった疑問や仮説が浮かぶことがあります。
こうした気付きも大切ですが、観察した事実とは分けて書くと、後から見返しやすくなります。
例えば、次のように記録します。
Bさん・昼休み
カルタで負ける→泣いて動けなくなる
切り替えまで約15分
気付き:負けた後の対応や約束を検討する
事実と仮説を分けておけば、担任の推測を事実として扱ってしまうことを防げます。
記録した時点で、具体的な手立てまで決める必要はありません。
まずは、後から考えるきっかけになる事実を残すことが目的です。

【関連記事】情緒学級で問題行動をどう見るか|前後関係から見立てを作るポイント
一つの場面だけでなく、前後の流れを見る
子どもの姿は、その瞬間だけを見ても分からないことがあります。
例えば、授業中に突然落ち着かなくなったように見えても、実際には直前の課題が難しかったのかもしれません。
休み時間に友達との間で何かあり、その気持ちを処理しきれないまま授業に入った可能性もあります。
そのため、記録するときは一つの出来事だけではなく、できれば前後の出来事も一緒に残します。
例えば、
教科書の音読に3分取り組む
↓
漢字の書き取りプリントに5分、一人で取り組む
↓
文字の形を崩さず、お手本の線を丁寧になぞる
というように、二つ程度の出来事をつなげて記録します。
慣れてくると、三つ、四つの出来事を連続して捉えられるようになります。
ただし、記録した時点で因果関係を断定する必要はありません。
「この活動をしたから荒れた」
「負けたから切り替えられなかった」
とすぐに結論づけるのではなく、まずは起こったことをそのまま残します。
記録が蓄積すると、
「この活動の後は不安定になりやすい」
「切り替えに時間がかかるのは、特定の場面に多い」
といった傾向が見えてきます。
これは、その場の出来事だけにとらわれず、引いた視点で子どもの姿を見ることにつながります。
最初はできている姿も意識して記録する
記録を始めたばかりの頃は、次のような姿にも注目するとよいでしょう。
- できていること
- 集中して取り組んでいること
- 好きなこと
- 得意なこと
- 自信を持っていること
- 落ち着いて過ごせている場面
困った場面は目につきやすいため、意識しないと記録が問題行動ばかりになってしまいます。
しかし、子どもの見立てを考えるうえでは、できないことだけでなく、どのような条件ならできるのかを見ることが重要です。
好きなことや得意なことは、関係づくりや支援を考える手掛かりにもなります。
また、具体的なよい姿を記録しておくと、子ども本人に伝えたり、保護者へ学校での様子を説明したりする際にも役立ちます。
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【関連記事2】情緒学級の保護者対応で大切なこと|子どもの頑張りを共有する関係づくり
メモはその日の終わりか週末に軽く見返す
残したメモは、その日の終わりや週末に一度ざっと見返します。
すべてを整理したり、きれいに書き直したりする必要はありません。
気になった箇所に線を引いたり、丸をつけたりする程度でも十分です。
見返すことで、
「最近、この活動では落ち着いている」
「同じような場面で困ることが続いている」
「来週は、この関わり方を意識してみよう」
と考えるきっかけが生まれます。
必要だと感じた情報だけ、正式な記録や電子データに移せば構いません。
不要だと感じたメモは、そのままでも問題ありません。
記録を毎回成果物にしようとすると、負担が大きくなり、続かなくなります。
まずは、書くことと見返すことを軽く習慣化します。
メモは30秒から1分で書き切る
その場で記録できるのが理想ですが、難しい場合は、授業後や休み時間などの隙間時間を使います。
一人分の簡単なメモであれば、30秒から1分程度で書けます。
時間内に書き切れないことは、無理に全部書こうとしなくても構いません。
重要なのは、長く書くことではなく、後から場面を思い出せる情報を残すことです。
「文章として整える」のではなく、単語や矢印を使って、さっと残します。
例えば、
国語・音読3分→書き取り10分
一人で継続・文字丁寧
昼休み・カルタで負ける
泣いて動けない・切り替え15分
気付き:負けた後の対応を検討
この程度で十分です。

記録を続けると見立ての精度が上がる
メモを取る目的は、その場ですぐに正解の支援方法を考えることではありません。
事実を少しずつ蓄積し、後から振り返れるようにすることです。
記録が増えると、担任の印象だけではなく、具体的な事実をもとに子どもの姿を考えられるようになります。
その結果、
- どのような場面で力を発揮できるのか
- 何が不安や負担につながりやすいのか
- どのような関わり方が合っているのか
- どの程度の時間や支援が必要なのか
といったことが少しずつ見えてきます。
子どもの姿を記録することは、書類作成のためだけの作業ではありません。
日々の子どもの姿を丁寧に捉え、見立てや支援につなげるための土台です。
まずは、一日に一件か二件、30秒で書ける簡単なメモから始めてみてください。