今回は、情緒学級で見られる問題行動をどのように捉え、どのように次の支援につなげていくかについてまとめます。
情緒学級では、子どもが不安定になったり、予定通りに動けなかったり、友達とのトラブルが起きたりすることがあります。
そのような場面では、もちろん必要な指導や安全確保が必要です。
ただ、問題行動をその場面だけで切り取って、
「悪いことをした」
「また同じことをした」
「何度言っても分からない」
と捉えてしまうと、次の支援につながりにくくなります。
大切なのは、問題行動を分類し、前後関係を見ながら整理することです。
その行動の前に何があったのか。
その場で何が起きたのか。
その行動の後に、どのような結果があったのか。
子どもは何に困っていたのか。
大人が支えられる部分はどこなのか。
こうしたことを整理していくと、ただ叱るだけでは見えなかった支援の糸口が見つかることがあります。
自傷・他害・危険行為は安全確保を優先する
まず、最初に確認しておきたいことがあります。
すべての問題行動を同じように扱うわけではありません。
特に、自傷行為、自傷につながる行為、他害、危険行為、物を壊す行為、相手を大きく傷つける言動などは、まず安全確保を優先します。
自分の体を傷つけようとしている。
友達を叩こうとしている。
物を投げようとしている。
危険な場所に行こうとしている。
周りの子どもが怖がっている。
自分や周囲に危険が及ぶ可能性がある。
こうした場面では、理由を聞いたり、反省を促したりする前に、まず止めることが必要です。
そのうえで、落ち着いたあとに、何が起きたのか、次にどうすればよいのかを確認していきます。
また、自傷行為や他害が繰り返される場合は、担任一人で抱え込まないことが大切です。
特別支援教育コーディネーター、養護教諭、管理職、保護者、必要に応じて関係機関などと情報を共有し、校内で対応方針を確認します。
この記事では、問題行動を前後関係から見立てる考え方を扱いますが、安全面に関わる行為については、まず安全確保とチームでの対応を優先するという前提で読んでください。
学級の約束は「傷つけない。自分も人も。」
学級開きの段階で、子どもたちと共有しておきたい約束があります。
それは、
「傷つけない。自分も人も。」
という約束です。
これは、情緒学級だけでなく、通常学級でも使いやすい考え方です。
「傷つけない」という言葉には、いろいろな意味を含めることができます。
人の体を傷つけない。
自分の体を傷つけない。
人の心を傷つけない。
自分の心を傷つけない。
物を乱暴に扱って、結果的に誰かが困るようなことをしない。
このように、約束の意味を広げて考えることができます。
もちろん、この言葉だけですべての行動が整うわけではありません。
子どもによっては、具体的な場面に分けて確認する必要があります。
ただ、学級全体の基本ルールとして、
「自分も人も傷つけない」
という考え方を共有しておくと、さまざまな場面で立ち返りやすくなります。
たとえば、トラブルが起きたあとに、
「今の行動は、自分や相手を傷つけることにつながっていなかったかな」
「次は、傷つけない方法で伝えるにはどうしたらよさそうかな」
と確認できます。
これは、子どもを縛るための言葉ではありません。
安全に過ごすための共通ルールです。
学級の中で安心して過ごすためには、自分も人も傷つけないことが土台になります。
叱るとは、感情をぶつけることではない
原則として、子どもを叱る場面は少ない方がよいです。
叱る場面が多いと、子どもも大人も疲れます。
関係性も、注意する側と注意される側に固定されやすくなります。
ただし、叱るべき場面はあります。
自傷や他害につながる行為。
危険な行為。
相手を傷つける行為。
何度も繰り返されている行動。
本人や周囲の安全を損なう行動。
こうした場面では、曖昧にせず、必要な指導を行います。
ただ、ここで言う「叱る」は、感情をぶつけることではありません。
大声で責めることでもありません。
人格を否定することでもありません。
長く説教することでもありません。
学校での指導としての「叱る」は、危険な行為や相手を傷つける行為を止め、何がよくなかったのかを短く伝え、次に同じ形で困らないための方法を一緒に考えることです。
つまり、目的は子どもを追い詰めることではありません。
同じ失敗を繰り返さないで済むようにすること。
困ったときの別の行動を身につけること。
安全に過ごせる方法を共有すること。
ここが目的です。
そう考えると、叱ることは、単に行動制限を増やすことではありません。
どちらかというと、緊急時の避難訓練に近い面があります。
避難訓練は、火事や地震を起こさないためだけに行うものではありません。
実際に何かが起きたとき、どこへ行くのか、誰の指示を聞くのか、どのように安全を確保するのかを共有するために行います。
問題行動への指導も、それに近いところがあります。
何が危険なのか。
困ったとき、どうすればよいのか。
誰に助けを求めればよいのか。
次に同じ場面になったとき、どの行動を選べばよいのか。
こうしたことを、子どもと一緒に確認していくことが大切です。
問題行動は、その場面だけで見ない
多くの場合、子どもはトラブルを起こしたくて起こしているわけではありません。
何らかの要因が重なり、その結果として行動に表れていると考えた方が、次の支援につなげやすくなります。
もちろん、行動そのものへの指導は必要です。
叩いた。
物を投げた。
自分を傷つけようとした。
暴言を言った。
離席した。
活動に参加できなかった。
こうした事実は、事実として確認します。
ただし、その場面だけで終わらせないことが大切です。
その行動の前に何があったのか。
どの活動で起きやすいのか。
誰との関わりで起きやすいのか。
どの時間帯に起きやすいのか。
その後、大人や周りの子どもがどう動いたのか。
結果として、子どもにとって何が変わったのか。
ここまで含めて見ると、行動の意味が少し見えてくることがあります。
問題行動は、突然その場だけで起きているように見えても、実際には前後の流れの中で起きていることが多いです。
「前・中・後」で整理する
問題行動を整理するときは、難しく考えすぎなくて大丈夫です。
まずは、
前。
中。
後。
この3つで見ます。
前は、その行動の前に何があったかです。
難しい課題が出た。
予定変更があった。
友達に何か言われた。
苦手な活動が始まった。
音や人の動きが多かった。
休み時間が終わった。
交流学級から戻ってきた。
疲れが出やすい時間帯だった。
中は、実際にどのような行動が起きたかです。
離席した。
大きな声を出した。
物を投げた。
友達を叩いた。
自分の体を傷つけようとした。
机の下に入った。
プリントを破った。
黙り込んだ。
後は、その行動の後に何が起きたかです。
課題をやらずに済んだ。
大人が長く関わった。
苦手な場面から離れられた。
友達が反応した。
活動が中断された。
別室へ移動した。
好きな活動に戻れた。
保護者連絡や校内共有が必要になった。
このように、前・中・後で整理すると、問題行動を少し冷静に見やすくなります。
たとえば、次のようなケースを考えます。
前:難しいプリントが配られた。
中:子どもが離席した。
後:プリントをやらずに済み、大人がそばで長く関わった。
この場合、離席そのものを叱るだけでは、次の支援につながりにくいです。
もしかすると、課題が難しすぎたのかもしれません。
プリントの量が多く見えたのかもしれません。
分からないときに助けを求める方法がなかったのかもしれません。
離席すると、課題から離れられる流れができていたのかもしれません。
大人が長く関わることが、本人にとって安心につながっていたのかもしれません。
このように、行動の前後を見ることで、次の手立てが変わってきます。
行動の後に何が起きているかを見る
問題行動を見るときは、行動の前だけでなく、行動の後も大切です。
本人が意図しているかどうかに関係なく、ある行動の後に子どもにとって望ましい結果が続くと、その行動が繰り返されやすくなることがあります。
これは、子どもが悪いことをして得をしようとしている、という意味ではありません。
本人も気づかないうちに、
「この行動をすると、苦手な場面から離れられる」
「この行動をすると、大人が長く関わってくれる」
「この行動をすると、難しい課題をやらずに済む」
「この行動をすると、注目してもらえる」
という流れができてしまうことがある、ということです。
たとえば、授業で分からない問題が出たときに離席する。
すると、課題を解かなくてよくなる。
さらに、大人が何十分もそばで関わってくれる。
このような流れが繰り返されると、本人にとって離席が「困ったときに使える方法」になってしまう可能性があります。
もちろん、子どもを放っておけばよいという話ではありません。
困っている子どもへの支援は必要です。
ただし、その支援が結果として問題行動を強めていないかは、見る必要があります。
課題から離れる必要があるなら、最初から休憩の取り方を決めておく。
分からないときのヘルプカードを用意する。
課題量を調整する。
離席してから長く関わるのではなく、離席する前に助けを求める方法を教える。
戻ってきた後に、短く取り組める課題を用意しておく。
このように、問題行動の後に起きていることを見直すと、支援の設計を変えられることがあります。
【関連記事】情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法
約束やルールは増やしすぎない
問題行動が起きると、大人は約束やルールを増やしたくなります。
「次からこれはしない」
「このときはここに行く」
「このカードを使う」
「この順番で動く」
「この時間はこれをする」
もちろん、約束やルールが必要な場面はあります。
ただし、増やせばよいわけではありません。
約束を作るということは、それを子どもに理解させ、守れるように支援し、守れたかどうかを確認し、守れなかったときに振り返る必要があるということです。
つまり、約束を増やすと管理コストも上がります。
大人側も管理しきれなくなります。
子どもも何を守ればよいのか分かりにくくなります。
守れない約束が増えると、注意される場面も増えます。
だからこそ、約束やルールはシンプルな方がよいです。
特に、クールダウン用のカードや合図、特別な約束事を作るときは、行動の前後関係をある程度見てから実装した方がよいです。
何がきっかけで不安定になりやすいのか。
どのタイミングで支援を入れるとよいのか。
子どもが自分で使える方法なのか。
大人が継続して対応できる方法なのか。
使った結果、子どもの成長につながるのか。
こうしたことを考えずに、カードや約束だけを増やすと、かえって複雑になります。
【関連記事】情緒学級で個別の約束事を作るときの考え方|ルールを増やす前に確認したいこと
ルールは、少し頑張れば守れる高さにする
ルールや約束を作るときは、子どもが少し頑張れば守れる高さにすることが大切です。
高すぎるルールは、守れません。
守れないルールがあると、子どもは注意される回数が増えます。
大人も「また守れなかった」と感じやすくなります。
結果として、子どもも大人も苦しくなります。
たとえば、すぐに離席してしまう子に対して、
「授業中は絶対に席を立たない」
という約束をいきなり設定しても、難しい場合があります。
その場合は、
「分からないときはカードを出す」
「席を立つ前に先生に合図する」
「まず1問だけ取り組む」
「5分取り組んだら短く休憩する」
「休憩したいときは、この場所で休む」
のように、少し頑張れば守れる形にします。
大切なのは、制限を増やすことではありません。
子どもが、自分で意識できること。
大人が支援できること。
守れたか確認しやすいこと。
守った結果、子どもの生活が少しよくなること。
継続できること。
こうした条件を満たす約束の方が、支援につながりやすいです。
カードで示す。
ハンドサインを決める。
クールダウン時の合言葉を決める。
困ったときに言う言葉を練習する。
こうした工夫も、シンプルで使いやすい形にしておくことが大切です。
【関連記事】スモールステップとは何か|できないことを少しずつできる形にする
子どもに任せる部分と、大人が支える部分を分ける
問題行動への対応を考えるときは、子どもに任せる部分と、大人が支える部分を分ける必要があります。
すべてを子どもの努力に任せるのは難しいです。
一方で、大人がすべてを管理してしまうと、子どもが自分で調整する経験が積みにくくなります。
だからこそ、
子どもが自分で気をつけられること。
支援があればできること。
大人が環境を調整する必要があること。
今は本人だけでは難しいこと。
このように分けて考えます。
たとえば、子どもに対して、
「ここまでは自分で気をつけられそうだね」
「でも、この場面は一人だと難しそうだから、先生が先に声をかけるね」
「困ったときは、このカードを出してくれたら先生が分かるよ」
「この時間は刺激が多いから、席を少し離しておこう」
と伝えることができます。
こうすると、子どもも「全部自分が悪い」と感じにくくなります。
自分で頑張る部分と、大人が助けてくれる部分が見えやすくなるからです。
もちろん、すべてを細かく説明しても、子どもが全部理解できるとは限りません。
それでも、
「あなたがどこで困っているのか」
「そこに対して、大人はどう助けようとしているのか」
「次にどうすればよいのか」
を、子どもに分かる言葉で共有していくことは大切です。
子ども自身が困り感に気づいていないこともある
子ども自身が、自分の困り感に気づいていないこともあります。
自分が何に不安を感じているのか分からない。
なぜイライラするのか分からない。
なぜその場から離れたくなるのか分からない。
なぜ友達に強く言ってしまうのか分からない。
なぜ自分を傷つけるような行動につながってしまうのか分からない。
こうしたことはあります。
大人から見ると、「こうすればよいのに」と思うことでも、子ども本人にはまだ見えていない場合があります。
その場合、大人の理屈で一方的に説き伏せる必要はありません。
少しずつ、
「この場面になると困りやすいね」
「音が多いと疲れやすいのかもしれないね」
「分からない問題が続くと、席を離れたくなるのかもしれないね」
「休憩を先に入れると戻りやすかったね」
「言葉で伝えられたときは、トラブルになりにくかったね」
と、子どもと一緒に整理していきます。
子どもが、
「これは自分にとって必要なことなんだ」
「この方法を使うと少し楽になるんだ」
「ここができると、生活しやすくなるんだ」
と少しずつ感じられるようになると、自分から取り組もうとするきっかけになりやすくなります。
理解したからといって、すぐにできるようになるわけではありません。
それでも、自分の困り感と支援の意味がつながってくると、指導は入りやすくなります。
手立てを考える前に確認したいこと
問題行動への手立てを考えるときは、最初から完璧に分析しようとしなくて大丈夫です。
ただ、いくつか確認しておくと、支援を考えやすくなります。
子どもは何に不安を感じていそうか。
その不安は、何によって起きやすいか。
その原因は、減らせるものか。
子ども本人が気をつけられる部分はどこか。
大人が支える部分はどこか。
手立てはシンプルか。
継続して実行できるか。
守れたかどうかを確認しやすいか。
子どもと共有できるか。
同僚や関係する大人と共有できるか。
効果を振り返る基準があるか。
こうした観点をすべて毎回満たす必要はありません。
最初から全部を見ようとすると、かなり大変です。
初めのうちは、次の3つだけでも十分です。
子どもは何に困っていそうか。
何がきっかけになっていそうか。
大人が減らせる刺激や負担はあるか。
この3つを見るだけでも、問題行動への見方はかなり変わります。
慣れてくると、自然に他の観点も見られるようになります。
【関連記事】個別の教育支援計画・指導計画を読むときのポイント|子どもと保護者理解につなげる
記録をもとに同僚へ相談する
見立てや手立ては、担任一人だけで抱え込まない方がよいです。
特に、自傷・他害・危険行為がある場合や、対応が難しい状態が続く場合は、必ず校内で共有します。
一方で、相談するときには、記録や観察した事実を整理して持っていくと、より具体的な助言をもらいやすくなります。
たとえば、
「最近荒れます。どうしたらいいですか」
だけでは、相手も助言しにくいです。
しかし、
「算数のプリントが配られた直後に離席することが3回ありました」
「離席後は、課題をやらずに済み、大人が長く関わる流れになっています」
「まずプリントの量を半分にして、分からないときはカードを出す方法を試そうと思っています」
「この見立てで抜けているところはありますか」
という形なら、かなり相談しやすくなります。
同僚に相談することは大切です。
ただし、日々一番近くで見ている担任だからこそ持っている事実もあります。
その事実を整理して相談すると、助言も具体的になります。
相談するときは、
事実。
見立て。
試した手立て。
困っていること。
次に考えている対応。
このあたりを簡単にまとめておくとよいです。
これは、特別支援教育コーディネーターや管理職に相談するときにも役立ちます。
【関連記事】情緒学級担任が同僚と関係を作るには?相談しやすいチームを作る考え方
問題行動は、次の支援を考えるための情報でもある
問題行動は、できれば起きない方がよいです。
子どもも苦しいです。
周りの子どもも不安になります。
担任も対応に追われます。
ただ、起きてしまった行動を、ただの失敗として終わらせる必要はありません。
そこには、次の支援を考えるための情報が含まれていることがあります。
どの場面で困りやすいのか。
どの刺激に反応しやすいのか。
どの活動で不安が高まりやすいのか。
どの声かけは入りにくいのか。
どの支援なら戻りやすいのか。
どの結果が行動を繰り返しやすくしているのか。
こうした情報を拾っていくことで、次の対応は少しずつ具体的になります。
問題行動をその場だけで切り取って叱るのではなく、前後関係を見て整理する。
自傷・他害・危険行為は、安全確保を優先する。
それ以外の行動も、きっかけや事後の結果まで見る。
約束やルールは増やしすぎない。
子どもに任せる部分と、大人が支える部分を分ける。
記録をもとに、同僚と相談する。
この流れを持っておくだけでも、問題行動への対応はかなり整理しやすくなります。
大切なのは、子どもを責めるために分析するのではないということです。
次に同じ形で困らないために。
子どもが少しでも安全に過ごせるように。
担任が感情だけで対応しなくて済むように。
関係する大人が同じ方向で支援できるように。
そのために、前後関係から見立てを作る。
この視点を持っておくと、情緒学級での指導や支援はかなり進めやすくなると思います。
ケースごとの具体的な手立てについては、別の記事で詳しく整理していきます。
問題行動を前後関係で整理するチェックリスト
最後に、問題行動を整理するときに使えるチェックリストをまとめます。
子どもの行動を責めるためではなく、次に同じ形で困らないために使うものです。
すべてを一度に埋める必要はありません。分かるところから少しずつ記録していけば大丈夫です。
問題行動の記録は、子どもを責めるためのものではありません。
子どもが次に同じ形で困らないようにするためのものです。
前後関係を見ながら、少しずつ支援の形を整えていきましょう。