支援の方法

情緒学級で個別の約束事を作るときの考え方|ルールを増やす前に確認したいこと

今回は、情緒学級で個別の約束事やルールを作るときの考え方について書いていきます。

約束事やルールは、みんなが気持ちよく、お互いに安心して過ごすための決まりです。

これは通常学級でも、特別支援学級でも基本的には同じです。

ただし、ルールは原則として少ない方がよいです。

ルールが多くなりすぎると、子どもにとっても教師にとっても負担が大きくなります。

一方で、行動の基準が明確になることで安心できる子どももいます。

「こういうときは、こうすればよい」

「ここまでは大丈夫」

「困ったときは、この方法を使えばよい」

このような見通しが持てることで、安心して過ごしやすくなる子どももいます。

そのため、約束事やルールは少なければ少ないほどよい、という単純な話ではありません。

大切なのは、必要なルールを、分かりやすく、守れる形で設定することです。

この記事では、学級全体のルールではなく、子どもごとに個別に設定する約束事を中心に扱います。

たとえば、クールダウンの約束。

気持ちが高ぶったときのサイン。

困ったときに先生へ伝える方法。

活動から離れるときの手順。

こうした個別の約束事を作るときに、どのような点を考えるとよいのかをまとめます。

個別の約束事は、拘束ではなくガードレールとして考える

個別の約束事を作るときに大切なのは、それを子どもへの拘束として考えないことです。

約束事は、子どもを縛るためのものではありません。

安心して過ごすためのガードレールです。

迷ったときに進む方向を示す道順のガイドです。

たとえば、気持ちが高ぶりやすい子どもに対して、

「イライラしたら勝手に教室を出てはいけない」

という形でルールを作ると、禁止の意味合いが強くなります。

一方で、

「気持ちが高ぶったら、先生にカードを見せてからクールダウンスペースに行く」

という約束にすると、困ったときにどうすればよいのかが分かりやすくなります。

同じように見えても、前者は行動を止めるためのルールになりやすく、後者は困ったときの道順になりやすいです。

個別の約束事は、子どもを管理するためではなく、子どもが自分の行動を整えやすくするために設定します。

この視点を持っておくことが大切です。

【関連記事】情緒学級で子どもに見通しを持たせる支援|予定・ゴール・困った時の動き方を示す

ルールを増やすことにはコストがある

新しく約束事を作るときには、ルールを増やすことのコストも考える必要があります。

ルールを増やすということは、子どもが守らなければならないことを増やすということです。

同時に、教師が支えなければならないことを増やすということでもあります。

ここは意外と見落とされやすいところです。

ルールは、作った瞬間に終わるものではありません。

作った後に、子どもがそのルールを思い出せるようにする必要があります。

守れるように働きかける必要があります。

守れたときに価値づける必要があります。

守れなかったときには、なぜ守れなかったのかを見直す必要があります。

つまり、ルールを作るということは、教師側にも運用する責任が生じるということです。

そのため、個別の約束事を作る前には、次のような点を確認しておくとよいです。

その約束事は、本当に必要なのか。

子どもが守れる内容になっているか。

具体的な行動として説明できるか。

守れている姿を教師がイメージできているか。

守れるようにするための手立てがあるか。

守れたときに、子どもの成功体験につながるか。

その約束事を、担任以外の大人も同じように理解できるか。

ここを曖昧にしたままルールだけを増やすと、結局うまく機能しないことがあります。

ルールがあるのに守れない。

教師によって対応が変わる。

子どもが何を求められているのか分からなくなる。

結果として、子どもも教師も苦しくなる。

そうならないためにも、ルールを増やす前に、本当に必要かどうかを慎重に考えることが大切です。

守れる約束事にする

個別の約束事は、子どもが守れる内容にすることが大切です。

当たり前のようですが、ここはとても重要です。

たとえば、気持ちが高ぶったときに大声を出してしまう子どもに対して、

「怒らない」

「大きな声を出さない」

「落ち着いて過ごす」

という約束を設定しても、子どもは何をすればよいのか分かりにくいことがあります。

これでは、守れる約束事になりにくいです。

約束事にするなら、具体的な行動に落とす必要があります。

「イライラしたら、先生にカードを見せる」

「カードを見せたら、クールダウンスペースに行く」

「クールダウンスペースでは、タイマーが鳴るまで静かに過ごす」

「落ち着いたら、先生と次にすることを確認する」

このように、子どもが実際に取る行動として示すと分かりやすくなります。

約束事は、気持ちの持ち方だけで作るのではなく、行動として確認できる形にすることが大切です。

また、必要であれば、カード、サイン、視覚的な手順表などを使うのも有効です。

言葉だけで理解するのが難しい子どももいます。

気持ちが高ぶっているときには、普段分かっていることでも思い出しにくくなることがあります。

だからこそ、子どもが思い出しやすい形、使いやすい形にしておくことが大切です。

守ることで本人にメリットがある約束にする

個別の約束事は、守ることで子ども本人にメリットがあるものにしたいです。

ここでいうメリットとは、ごほうびを用意するという意味だけではありません。

もちろん、必要に応じて分かりやすい強化を使うこともあります。

しかし、それ以上に大切なのは、子ども自身が、

「この約束があると助かる」

「この方法を使うと、困ったときに楽になる」

「これを守ると、自分も安心できる」

と感じられることです。

たとえば、クールダウンの約束であれば、

「気持ちが高ぶったときに、怒られ続けるのではなく、落ち着く場所へ移動できる」

「自分からカードを出せば、先生に気持ちを分かってもらいやすくなる」

「落ち着いてから戻れば、次の活動に入りやすくなる」

このように、本人にとっての意味があります。

約束事は、教師が困らないためだけに作るものではありません。

子ども自身が困ったときに助かるためのものです。

ここがずれると、約束事が支援ではなく管理になってしまいます。

子どもに一方的に押しつけない

個別の約束事は、大人が一方的に設定して終わりにしない方がよいです。

もちろん、理想を言えば、子どもと相談しながら決められるとよいです。

「こういうとき、どうしたらいいと思う?」

「この方法ならできそう?」

「困ったときに、カードを使うのはどう?」

このように、子ども自身と相談しながら決められると、本人の納得感も高まりやすくなります。

ただし、実際にはそう簡単にいかないこともあります。

子ども自身がまだ困り感を十分に言語化できない場合もあります。

その場では必要性を理解しにくい場合もあります。

安全面や学級全体の状況を踏まえて、大人が先に枠組みを提案する必要がある場合もあります。

その場合でも、できるだけ「提案する」という形を意識するとよいです。

「あなたを困らせるための約束ではない」

「困ったときに助かるための方法を一緒に決めたい」

「この約束があると、気持ちが高ぶったときに落ち着きやすくなる」

「先生たちも、この方法であなたを助けられるようにしたい」

このように、約束事の必要性や意味を伝えます。

大切なのは、子どもに「またルールを増やされた」と感じさせることではありません。

「自分が困ったときに助かる方法を一緒に決めている」と感じられるようにすることです。

【関連記事】情緒学級の関係性づくり|できたことを一緒に喜ぶことから始める

説明するときは、必要性・方法・よい変化を伝える

子どもに約束事を説明するときには、次のようなことを伝えるとよいです。

なぜこの約束事が必要なのか。

どの場面で使うのか。

子どもは何をすればよいのか。

教師はどう対応するのか。

守れるようになると、どのようなよいことがあるのか。

たとえば、クールダウンの約束であれば、

「気持ちが高ぶったときに、そのまま教室で頑張り続けると、もっと苦しくなることがあるよね」

「そういうときは、このカードを先生に見せてください」

「カードを見せたら、クールダウンスペースに行けるようにします」

「そこで少し落ち着いてから、次にどうするか先生と確認しよう」

「この方法が使えるようになると、怒られたり、無理に頑張り続けたりする前に、自分で落ち着く時間を作れるようになるよ」

このように、子どもにとっての意味が分かるように説明します。

基本的には、子ども自身も何らかの困り感を抱えていることが多いです。

その困り感と約束事をつなげて、

「この約束があると助かる」

という方向で伝えることが大切です。

約束事は罰とセットにしない

個別の約束事は、守れなかったときに責めるためのものではありません。

ここはとても大切です。

約束事を作ると、つい「守れたか」「守れなかったか」に目が向きます。

もちろん、守れるようになることは大切です。

しかし、守れなかったときに叱るだけでは、支援になりにくいです。

大切なのは、なぜ守れなかったのかを見ることです。

約束事が難しすぎたのか。

使うタイミングが分かりにくかったのか。

カードやサインが必要だったのか。

教師の声かけが遅かったのか。

周囲の刺激が強すぎたのか。

その場で思い出せる形になっていなかったのか。

守れなかった場面は、子どもを責めるためではなく、支援を見直すための材料になります。

個別の約束事は、罰のためではなく、支援のためにあります。

この前提を忘れないようにしたいです。

一度決めたら、一定期間は続ける

個別の約束事は、一度決めたら一定期間は続けることを前提にした方がよいです。

もちろん、明らかに合っていない場合や、子どもの負担が大きすぎる場合は見直しが必要です。

ただし、導入してすぐに内容を変えたり、その日の雰囲気で基準を変えたりするのは避けたいです。

子どもによっては、基準が頻繁に変わることで不安になることがあります。

昨日はよかったのに、今日はだめ。

先生によって対応が違う。

その日によって約束の内容が変わる。

このような状態になると、子どもは何を基準に行動すればよいのか分からなくなります。

そのため、約束事を設定するときには、最初からある程度続けられる形にしておくことが大切です。

また、可能であれば、終了や緩和の基準も考えておくとよいです。

たとえば、

「カードを使ってクールダウンに行ける日が続いたら、次は言葉で伝える方法も試す」

「一定期間、教師の声かけで移動できるようになったら、本人から申し出る形に移行する」

「トラブルが起きた後ではなく、気持ちが高ぶる前にサインを出せるようになることを目指す」

このように、次の段階を考えておくと、約束事が固定化しすぎることを防ぎやすくなります。

その場の気分や情だけで基準を動かすのではなく、子どもにも大人にも分かる基準を持って運用することが大切です。

担任一人で決めない

個別の約束事を作るときには、できるだけ担任一人で決めない方がよいです。

特に、日常的に関わる大人が複数いる場合は、チームで確認することが大切です。

同僚。

支援員。

交流学級の担任。

管理職。

保護者。

必要に応じて、関係機関。

その子どもに関わる大人が、約束事の内容や対応を共有しておく必要があります。

担任しか知らないルールが増えていくのは避けたいです。

担任だけが知っている。

支援員は知らない。

他の先生は知らない。

保護者も知らない。

この状態では、子どもへの対応が人によって変わりやすくなります。

また、子どもにとっても「この先生のときだけ言われるルール」になってしまうことがあります。

それでは、安心のための約束事になりにくいです。

個別の約束事ほど、チームで共有することが大切です。

【関連記事】情緒学級で子どもとの約束を共有するには?担任だけのルールにしないために

導入前に同僚にチェックしてもらう

新しい約束事を導入する前には、経験のある同僚に見てもらうとよいです。

自分では分かりやすいと思っていても、他の人から見ると分かりにくいことがあります。

子どもにとって守りにくい内容になっていることもあります。

教師側の運用が大変すぎることもあります。

同僚には、遠慮なくシビアに見てもらった方がよいです。

このルールは本当に必要か。

内容が複雑すぎないか。

子どもが守れる形になっているか。

教師が毎日運用できるか。

守れた姿が具体的に分かるか。

守れなかったときの対応が決まっているか。

保護者に説明できる内容になっているか。

こうした点を確認してもらいます。

個別の約束事は、導入後の負担も含めて考える必要があります。

シンプルにできるなら、シンプルにした方がよいです。

ルールを増やす前に、環境調整や大人側の対応で解決できるなら、その方がよい場合もあります。

【関連記事】情緒学級担任が同僚と関係を作るには?相談しやすいチームを作る考え方

保護者にも共有する

個別の約束事を設定した場合は、保護者にも共有します。

学校でどのような場面があったのか。

なぜその約束事が必要だと考えたのか。

どのような方法で運用するのか。

子どもが守れたときには、どのように価値づけるのか。

家庭で協力してほしいことはあるのか。

こうしたことを、必要な範囲で伝えます。

ここで大切なのは、保護者に「学校で問題があるからルールを作ります」とだけ伝えないことです。

それでは、保護者が責められているように感じる場合があります。

そうではなく、

「お子さんが困ったときに、安心して落ち着ける方法を学校でも整えたい」

「うまくいく方法を、学校でも家庭でも共有していきたい」

「まず学校でこの方法を試して、様子を見ていきたい」

このように、支援のための約束事であることを伝えるとよいです。

保護者との共有は、子どもへの支援を安定させるためにも大切です。

【関連記事】保護者に気になる姿を伝える言い方|責めずに相談する考え方と文例

導入後は記録する

個別の約束事を導入した後は、取り組みの様子を記録します。

記録といっても、最初から細かく書きすぎる必要はありません。

まずは、約束事が機能しているかを確認します。

どの場面で使えたのか。

どの場面では使えなかったのか。

子どもは約束事を理解しているか。

教師の声かけで思い出せるか。

自分から使える場面はあるか。

使った後に落ち着きやすくなったか。

約束事によって、本人の負担は減っているか。

教師側の運用に無理はないか。

こうした点を見ます。

記録することで、感覚だけで判断しなくて済みます。

うまくいっているのか。

見直しが必要なのか。

続けた方がよいのか。

少し緩和できるのか。

チームで判断しやすくなります。

【関連記事】情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法

ルールを増やさずに済むなら、それが一番よい

ここまで個別の約束事について書いてきましたが、そもそもルールを増やさずに済むなら、それに越したことはありません。

個別の約束事は、必要なときには有効です。

しかし、何でもルール化すればよいわけではありません。

大人の声かけを変える。

活動の順番を変える。

座席を調整する。

刺激を減らす。

見通しを持てるようにする。

支援員との役割分担を整理する。

チームで対応をそろえる。

こうした工夫によって、個別のルールを増やさずに済むこともあります。

ルールを作る前に、環境調整や大人側の対応で支えられないかを考えることも大切です。

個別の約束事は、最後の手段というほどではありません。

しかし、気軽に増やしてよいものでもありません。

必要性を検討し、シンプルにし、守れる形にし、チームで共有したうえで導入する。

そのくらい慎重に扱う方がよいと思います。

まとめ

情緒学級で個別の約束事を作るときには、ルールを増やすことの意味をよく考える必要があります。

約束事は、子どもを縛るためのものではありません。

安心して過ごすためのガードレールです。

困ったときにどうすればよいのかを示す道順です。

ただし、ルールを増やすということは、子どもが守るものを増やすということです。

同時に、教師が支えるものを増やすということでもあります。

そのため、個別の約束事を作るときには、次の点を確認したいです。

本当に必要であること。

シンプルで分かりやすいこと。

子どもが守れること。

守ることで本人にメリットがあること。

守れるようにする手立てがあること。

担任以外の大人とも共有されていること。

導入後に記録し、必要に応じてチームで見直せること。

また、担任一人の裁量で新しいルールをどんどん増やすことは避けたいです。

特別支援学級の経営は、通常学級以上にチーム対応が重要です。

担任だけが知っているルール。

担任だけが運用している約束事。

その場の雰囲気で変わる基準。

こうしたものが増えると、子どもにとっても大人にとっても分かりにくくなります。

個別の約束事は、必要なときに、必要な形で、シンプルに設定する。

そして、子ども本人、保護者、同僚と共有しながら、支援として運用していく。

その視点を持っておくことが大切です。

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