勝ち負けのある活動で負けると、強く怒ったり、塞ぎ込んだり、その場から離れてしまったりする子どもがいます。
中には、暴言や暴力につながったり、授業の最後まで活動へ戻れなくなったりするケースもあります。
そのような姿を見ると、
「負けることに慣れさせた方がよいのではないか」
「わがままを認めず、厳しく指導すべきではないか」
と考えることもあるかもしれません。
しかし、勝敗へのこだわりが強く表れる理由は、子どもによって異なります。
負けることを自分の価値の否定として受け取っていることもあれば、予想と違う結果を受け入れることが難しい場合もあります。判定への納得のしにくさや、友達に見られる恥ずかしさ、過去の失敗経験が影響していることもあります。
大切なのは、勝ちたい気持ちや悔しさそのものを否定することではありません。
本人や周囲を傷つけず、悔しい気持ちを処理して、次の行動へ移れるように支援することです。
本記事では、勝ち負けのある活動で怒ったり崩れたりする子どもについて、観察したいポイントと、予防的な支援、崩れた後の対応を紹介します。
勝ちたい気持ち自体は悪いものではない
勝ちたい、上手になりたい、友達より早くできるようになりたいという気持ちは、子どもの意欲につながります。
勝てた経験や、努力して上達した経験が、自信になることもあります。
そのため、勝ち負けにこだわること自体を、すぐに問題として扱う必要はありません。
支援を考えたいのは、勝敗をきっかけに、次のような状態が繰り返される場合です。
- 暴言や暴力が起きる
- 物を投げたり壊したりする
- 教室や活動場所から飛び出す
- 長時間、活動へ戻れなくなる
- 友達を馬鹿にしたり、煽ったりする
- 負けそうになると、ルールを守らなくなる
- 次の授業や翌日まで気持ちを引きずる
- 大人が長時間個別に対応しなければならない
勝敗をきっかけに安全が損なわれたり、学習や人間関係の経験が大きく狭まったりしている場合は、優先して支援を考えます。
目指すのは、負けても全く悔しがらない子どもにすることではありません。
悔しさを感じても、本人や周囲を傷つけず、少しずつ次の行動へ移れるようになることを目指します。
【関連記事】スモールステップとは何か|できないことを少しずつできる形にする
まずは、どの時点で崩れるのかを観察する
「負けると崩れる」といっても、崩れ始める時点は子どもによって異なります。
負けた瞬間に怒るとは限りません。
勝敗があると分かった時点で不安になる子どももいれば、点差が開いたところで崩れる子どももいます。判定への不満や、友達の言葉をきっかけに気持ちが高まることもあります。
活動の前、活動中、活動後に分けて観察すると、支援の手がかりを見つけやすくなります。
活動前の様子
活動が始まる前には、次のような点を見ます。
- 勝敗があると知った時点で不安そうになるか
- 相手やチーム分けを気にしているか
- 自分が勝てそうか繰り返し確認するか
- 活動そのものを避けようとするか
- ルールや勝敗の決め方を強く確認するか
この段階で不安定になる場合は、負けた結果よりも、勝敗を予測できないことや、参加する前の不安が大きい可能性があります。
活動中の様子
活動中は、どの場面から変化が始まるかを見ます。
- 一度失敗すると気持ちが崩れるか
- 点差が開くと参加をやめるか
- 負けが確定する前から投げやりになるか
- 判定に納得できないと怒るか
- 友達の言葉や表情に反応するか
- 周囲と比べて、自分の進み具合を気にするか
体育やゲームだけでなく、授業中に同じ課題へ取り組む友達の進み具合を気にする子どももいます。
本人にとっては、教師が勝負として設定していない活動でも、勝ち負けのある場面になっていることがあります。
活動後の様子
活動後には、次の点を確認します。
- どのような崩れ方をしたか
- 落ち着くまでにどのくらいかかったか
- 何をすると落ち着きやすかったか
- 次の活動へ戻れたか
- 自分や相手を責め続けたか
- 教師のどのような声かけが有効だったか
- 一人で過ごす方がよかったか、誰かに話す方がよかったか
「どれくらい怒ったか」だけではなく、落ち着くまでの過程も記録します。
同じように見える崩れ方でも、必要な支援が異なるためです。

【関連記事】情緒学級で子どもの姿を記録するには?見立てにつながる簡単メモの残し方
勝敗で崩れる背景は一つではない
勝敗への反応が強い理由を、一つに決めつけないことも大切です。
背景としては、例えば次のようなものが考えられます。
- 負けることを「自分はダメだ」という評価と結びつけている
- 勝てると思っていたため、予想外の結果を処理できない
- ルールや判定に納得できない
- 人前で失敗することが恥ずかしい
- 友達に馬鹿にされることを心配している
- 感情が高まったときの対処方法を持っていない
- 成功か失敗かの二択で物事を捉えている
- 過去に負けた後、嫌な思いをした
- 活動そのものの難易度や集団参加の負担が高い
中には、負けたことを自分の中で処理し、次へ切り替える方法をまだ十分に持っていない子どももいます。
そのような場合は、単に「我慢しなさい」と伝えるのではなく、負けたときに取れる行動や、気持ちの置き場を具体的に教えていく必要があります。
支援は予防と事後対応に分けて考える
勝敗への支援には、大きく分けて二つの方向があります。
一つは、崩れにくくするための予防的な支援です。
もう一つは、実際に怒ったり崩れたりした後の対応です。
崩れた後の対応だけを繰り返していると、毎回同じ場面で大人が長時間対応することになります。
一方で、予防だけを考えても、実際に気持ちが崩れたときの対応が決まっていなければ、安全を保てません。
両方を並行して考えることが大切です。
予防① 勝敗があることを事前に伝える
勝敗のある活動へ突然参加させるよりも、事前に活動の見通しを伝えます。
例えば、
「今日は最後に勝ち負けが決まるゲームをします」
「3回勝負です」
「途中で悔しくなったら、一度休むことができます」
といったことを、活動前に確認します。
勝敗の決め方や活動の終了条件も、できるだけ明確にします。
ルールが曖昧なまま進めると、判定への不満が生じやすくなるからです。
ただし、事前に説明すれば必ず崩れなくなるわけではありません。
見通しを示す目的は、結果を納得させることではなく、本人が活動へ参加するための準備をしやすくすることです。
予防② 勝ち負け以外の目標を決める
勝つことだけが活動の成功条件になると、負けた瞬間に「全部失敗だった」と感じやすくなります。
そこで、活動前に勝敗とは別の目標を決めます。
例えば、
- 最後までその場に参加する
- ルールを守る
- 負けたときに「よし、次」と言う
- 相手を傷つけない言葉を使う
- 一度休んでから活動へ戻る
- 勝ったときに相手を馬鹿にしない
- 友達のよいところを一つ見つける
といった目標です。
「今日の目標は勝つことではなく、負けた後に次の行動へ移ること」と明確に伝えてもよいでしょう。
活動後には、勝敗だけでなく、事前に決めた目標ができたかを振り返ります。
負けたとしても、
「途中で怒りそうになったけれど、席を離れて戻ってこられた」
「悔しかったけれど、相手に嫌なことを言わなかった」
という点を評価できます。
予防③ 教師との短い活動から始める
負けたときの崩れ方が大きい場合、最初から友達との勝負で練習するのは難しいことがあります。
友達との活動では、勝敗だけでなく、恥ずかしさ、比較、相手の表情、周囲からの注目なども加わるからです。
初めは、関係の安定した教師との一対一で行います。
じゃんけん、カードゲーム、短いすごろくなど、すぐに終わり、繰り返しやすい活動が使いやすいです。
教師との活動であれば、回数や時間、難易度を調整しやすくなります。
最初から教師が必ず負けるのではなく、子どもが勝つ経験と負ける経験の両方を、無理のない範囲で作ります。
活動そのものを安心して楽しむ経験や、勝ったときの振る舞いを学ぶ段階では、教師が意図的に負けることもあります。
ただし、いつも子どもが勝てる状態にすると、勝てる相手としか活動しなくなったり、負けたときの立て直しを練習できなくなったりします。
教師との短い活動から始め、慣れてきたら関係の安定した友達、小集団、授業場面へと少しずつ広げます。
予防④ 「負けたときの反応」を先に決める
負けた瞬間にどうすればよいか分からない子どもには、使える反応をあらかじめ決めておく方法があります。
例えば、じゃんけんをする前に、
「勝ったら小さくガッツポーズをする」
「負けたら『よし、次』と言う」
と確認します。
負けたときの反応には、次のようなものがあります。
- 「よし、次」と言う
- 「まあ、いっか」と言う
- 深呼吸を一回する
- 手を一度握ってから開く
- 水を一口飲む
- 教師に「悔しい」と伝える
- 決めた場所で少し休む
子どもによって、使いやすい言葉は異なります。
「ドンマイ」という言葉が合う子どももいれば、嫌がる子どももいます。「まあ、いっか」が、自分の気持ちを軽く扱われているように感じる場合もあります。
教師が言わせたい言葉を決めるのではなく、本人が使いやすく、短くて思い出しやすいものを一緒に探します。
ここで大切なのは、合言葉を言わせることだけを目的にしないことです。
言葉を言えたとしても、その後ずっと怒り続けているのであれば、気持ちを処理できたとは言えません。
反応を決めることと合わせて、悔しい気持ちをどこへ持っていくかも考えます。

予防⑤ 気持ちの置き場を用意する
悔しい気持ちを、すぐになくすことはできません。
無理に笑わせたり、何も感じていないように振る舞わせたりする必要もありません。
周囲や本人を傷つけず、安全な形で悔しさを表現できるのであれば、それも一つの対処方法です。
例えば、
- 教師に「悔しかった」と話す
- 紙へ書く
- 静かな場所で少し過ごす
- 一人で少し泣く
- クッションを抱える
- 次にどうしたいかを考える
- 落ち着いてから再挑戦する
といった方法があります。
本人にとって、
「悔しくなったら、ここで話を聞いてもらえる」
「少し離れても、落ち着いたら戻れる」
という見通しがあるだけでも、活動へ参加しやすくなることがあります。
クールダウンの場所や使い方については、別の記事で詳しく解説します。
「負ける練習」は無理に負けさせることではない
勝敗への反応を練習することを、分かりやすく「負ける練習」と呼ぶことがあります。
ただし、これは何度も負けさせて我慢させることではありません。
安心できる相手との短い活動で、負けた後に気持ちを立て直す経験を少しずつ積むことです。
初めは、数秒から数分で終わる活動を使います。
活動前に、
- 何回行うか
- 負けたときに何をするか
- 途中で苦しくなったらどうするか
- 活動を終える条件
を確認します。
負けた後に決めた言葉を使えた、暴言を言わなかった、一度休んでから戻れたといった行動を評価します。
一度うまくできたからといって、急に難しい集団活動へ広げる必要はありません。
教師との一対一でできたことが、友達との活動でも同じようにできるとは限らないためです。
スモールステップで、活動時間、相手、人数、勝敗の分かりやすさなどを少しずつ変えていきます。
勝ったときの振る舞いも教える
勝敗への支援は、負けたときだけではありません。
勝ったときに、
「弱いね」
「こんなのもできないの」
などと相手を馬鹿にしたり、過度に煽ったりする子どももいます。
勝ったことを喜ぶのは自然ですが、相手を嫌な気持ちにさせない喜び方があることも教えます。
例えば、
- 相手へ向かって大声で叫ばない
- 相手の失敗を笑わない
- 小さくガッツポーズをする
- 「やった」と自分の中で喜ぶ
- 活動後に相手へ「ありがとう」と伝える
といった方法です。
教師が勝ったときや負けたときの振る舞いを見せることも、よい見本になります。
ただし、勝てる相手ばかりを選ぶ、相手との上下関係に強くこだわるといった行動については、勝敗への対応だけでなく、子ども同士の関係づくりという視点も必要です。
この点については、別の記事で扱います。
実際に崩れたときは、安全確保を優先する
予防的な支援をしていても、実際に感情が崩れることはあります。
暴言や暴力、物を投げる行為、飛び出しなどが起きた場合は、まず本人と周囲の安全を確保します。
興奮している最中に、
「負けたくらいで怒らない」
「約束したでしょう」
と長く説明しても、話が入りにくいことがあります。
その場では必要なことだけを短く伝えます。
「相手から離れます」
「今は先生とこちらへ行きます」
「物は置きます」
必要に応じて場所を変え、子どもが落ち着くのを待ちます。
勝ちたい気持ちや悔しい気持ちは受け止めますが、暴言や暴力まで認めるわけではありません。
「負けて悔しかったんだね」
「勝ちたかった気持ちは分かった」
と伝えたうえで、
「悔しくても、相手を叩くことはできません」
「嫌な言葉を言われた相手は傷つきます」
と、気持ちと行動を分けて扱います。
問題行動後の聴き取りや伝え方については、別の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】情緒学級での叱り方|問題行動があったときの聴き方と伝え方
落ち着いた後に、次の行動を確認する
子どもが落ち着いたら、何があったのかを振り返ります。
振り返りでは、反省の言葉を無理に言わせるのではなく、
- どの時点から苦しくなったか
- 何が嫌だったか
- どのような行動を取ったか
- その結果、周囲にどのような影響があったか
- 次に同じ場面があったら何をするか
を整理します。
前もって決めていた方法が使えなかった場合は、本人を責めるのではなく、なぜ使えなかったかを考えます。
活動中に思い出せなかったのであれば、目につく場所へカードを置く方法があります。
「休みたい」と言えなかったのであれば、言葉ではなく合図を決める方法もあります。
落ち着くための場所まで移動できなかったのであれば、もっと近い場所を設定することもできます。
できなかったことを叱るだけではなく、次に使いやすい仕組みへ調整します。
【関連記事】情緒学級で子どもに見通しを持たせる支援|予定・ゴール・困った時の動き方を示す
日頃から「ここまでできれば大丈夫」を積み重ねる
勝敗への反応が強い子どもの中には、負けることだけでなく、失敗する自分や、最後までできない自分を受け入れることが難しい子どももいます。
「負ける自分はダメだ」
「どうせ最後までできない」
「失敗するなら、最初からやらない」
という捉え方が見られることもあります。
そのような場合は、勝負場面だけを練習しても、十分ではないことがあります。
日常の中で、本人が達成できる基準を設定し、
「ここまでできた」
「途中で休んだけれど戻れた」
「前より長く参加できた」
という経験を積み重ねることも必要です。
例えば、45分間すべて参加することが難しい子どもであれば、
「今日は最初の20分間参加できればよい」
「一度休んでも、最後に戻れればよい」
という目標から始めます。
行事への参加が難しい子どもであれば、最初からすべて参加することを求めず、
「今日は練習を見学できた」
「一つの種目だけ参加できた」
ことを成功として扱います。
目標を下げることは、成長を諦めることではありません。
本人が達成できる大きさに課題を調整し、「自分は全くできないわけではない」と感じられる土台を作ることです。
自分に求める基準が高すぎたり、成功と失敗を二択で捉えていたりする子どもにとって、日頃の小さな成功経験は重要です。
【関連記事】情緒学級で切り替えが苦手な子どもへの支援と対策
支援の成果は、崩れなくなったかだけで見ない
勝敗への支援を始めても、すぐに全く怒らなくなるわけではありません。
支援の成果は、次のような変化から見ます。
- 暴力がなくなった
- 暴言の回数が減った
- その場から飛び出さなくなった
- 落ち着くまでの時間が短くなった
- 自分から休憩を申し出られた
- 教師に「悔しい」と伝えられた
- 決めた合言葉や行動を使えた
- 一度離れた後、活動へ戻れた
- 次の授業まで引きずらなくなった
- 勝ったときに相手を傷つけない振る舞いができた
以前は30分間戻れなかった子どもが、10分で活動へ戻れたのであれば、それも変化です。
以前は暴力につながっていた子どもが、強い言葉を使いながらもその場を離れられたのであれば、安全面では前進しています。
完璧にできたかどうかだけでなく、崩れ方、回復までの時間、使えた代替行動を見ていきます。
【関連記事】情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法
まとめ|悔しさをなくすのではなく、扱い方を増やす
勝ち負けにこだわって怒ったり崩れたりする子どもへの支援では、勝ちたい気持ちや悔しさそのものを否定しないことが大切です。
まずは、どの時点で、何をきっかけに崩れるのかを観察します。
そのうえで、
- 勝敗のある活動を事前に予告する
- 勝ち負け以外の目標を決める
- 教師との短い活動から練習する
- 負けたときの反応を先に決める
- 気持ちの置き場を用意する
- 必要に応じてクールダウンを使う
- 日常の中で小さな成功経験を積む
といった支援を組み合わせます。
実際に崩れたときは、安全確保を優先し、落ち着いてから気持ちと行動を分けて振り返ります。
目指すのは、負けても何も感じなくなることではありません。
悔しい気持ちを持ちながらも、本人や周囲を傷つけず、次の行動へ移る方法を少しずつ増やしていくことです。
突発的な出来事への対応も必要ですが、それだけでは毎回同じ対応を繰り返すことになります。
日頃の遊びや授業、教師とのやり取りの中へ、小さな練習と成功経験を組み込んでおく方が、長期的には子どもにとっても教師にとっても負担の少ない支援になります。

【関連記事】情緒学級担任は大変?経験者が負担を減らす考え方の基本を解説
【関連記事】情緒学級の支援|まず子どもの何を見るのか