運動会をはじめとする学校行事は、普段の授業とは大きく異なる環境で行われます。
大勢の子どもが一斉に動く。いつもとは違う時間割で過ごす。大きな音や放送が流れる。長い待ち時間がある。練習によって予定が変わることもあります。
このような環境では、普段の学級では落ち着いて過ごせている子どもでも、不安が強くなったり、参加することに難しさを感じたりすることがあります。
そのため、情緒学級の子どもが学校行事に参加するときには、「みんなと同じように最後まで参加すること」だけを目標にするのではなく、その子どもにとってどのような参加の形が無理なく実現できるのかを考えることが大切です。
この記事では、学校行事に参加する際の基本的な考え方と、運動会を例にした事前準備・練習・当日の支援について、実際の学校現場を想定しながらまとめます。
ここで紹介する考え方は、運動会だけでなく、学習発表会、遠足、校外学習、宿泊学習など、さまざまな学校行事にも応用できます。
学校行事への参加で「その子にとっての成功」を考える
学校行事には、友達と協力すること、自分の役割を果たすこと、集団の一員として活動することなど、さまざまな教育的な意味があります。
その上で、情緒学級の子どもの支援を考える際には、今回の行事で「その子にとって何ができれば成功と言えるのか」を具体的にしておくと、支援の方向性を決めやすくなります。
例えば、
- みんなと同じ場所で過ごすことができた
- 自分が参加する競技に出ることができた
- 最後まで競技に取り組むことができた
- 困ったときに教師へ伝えることができた
- 休憩しながらでも行事に参加することができた
- 自分なりの方法で友達と一緒に過ごすことができた
などです。
成功の形は一つではありません。
すべてを同時に達成することを目指すのではなく、私の場合は、その時点で特に大切にしたいものを2〜3個程度に絞って考えることが多くありました。
例えば、
「今回は自分の競技に参加することと、応援席で一定時間過ごすことを中心に考える」
と決めておけば、教師が何を支援するべきなのかも明確になります。
支援に関わる大人同士でも、
「この子には今、この部分を目標としている。そのため、このような支援をする」
という共通理解を持ちやすくなります。
大人の対応がある程度そろうことで、子どもにとっても状況が分かりやすくなります。
また、うまくいかなかった場合にも、「どこで難しさが生じたのか」「次はどの部分を変えるのか」を振り返りやすくなります。

まず「何が参加を難しくしているのか」を把握する
具体的な支援を考える前に必要なのが、子どもの実態把握です。
「運動会が苦手」と一言で言っても、その理由は子どもによって大きく異なります。
例えば、次のようなことが負担になっている場合があります。
- 大きな音や放送、ピストル音
- 大勢の子どもがいる環境
- 普段とは違う時間割
- 急な予定変更
- 長い待ち時間
- 競技のルールが分からないこと
- 自分が次に何をするのか分からないこと
- 着替えや移動
- 勝ち負けへのこだわり
- 暑さや疲労
- 普段と違う教師や支援員が関わること
- 失敗するところを人に見られることへの不安
大切なのは、「参加できない」という結果だけを見るのではなく、どの場面で、何が負担になっているのかを見ることです。
例えば、運動会そのものが嫌なのではなく、「練習によって時間割が毎日変わること」が不安の原因になっていることもあります。
逆に、競技への参加自体には問題がなくても、招集場所で長時間待つことが難しい場合もあります。
このように負担の原因が分かれば、必要な支援も変わります。

実態把握や見立ての作り方については、別の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事:情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法】
本人と一緒に参加の目標を考える
教師側の見立てができたら、可能な範囲で本人とも行事について話をします。
「どの競技に出るのか」
「どんなことを頑張りたいのか」
「どんなことが心配なのか」
などを確認します。
子どもの発達段階や実態によっては、本人が具体的に答えることが難しい場合もあります。
そのような場合には、
「徒競走に出てみる?」
「応援席では先生の近くにいる?」
「疲れたらここで休めるよ」
など、具体的な選択肢を示しながら確認すると分かりやすくなります。
必要に応じて、保護者から家庭での様子や本人の不安について聞いておくことも有効です。
教師だけで目標を決めるのではなく、本人や保護者の思いも踏まえながら、無理のない参加方法を考えていきます。
まずは当日の流れを分かるようにする
運動会の準備では、最初に当日の大まかな流れを共有します。
例えば、
- 学校へ来る
- 着替える
- 開会式
- 応援席で待つ
- 徒競走に参加する
- 休憩する
- 団体競技に参加する
- 閉会式
- 教室へ戻る
といった形です。
すべてを細かく説明する必要はありません。
まずは、「その日は何が起こるのか」が大まかに分かることが重要です。
昨年度の写真や録画映像を学校のルールの範囲内で使用できるのであれば、それらを活用することもあります。
特に競技の映像は、
「どこからスタートするのか」
「どこへ移動するのか」
「何をすれば終わりなのか」
といったことを理解する助けになります。
言葉や文字だけで説明するよりも、実際の様子を見せた方が理解しやすい子どもも多くいます。
練習参加もスモールステップで考える
行事への参加では、本番だけでなく練習段階から支援が始まります。
ここで大切なのは、
「練習ができなければ、本番にも参加できない」
という意味づけをしすぎないことです。
練習はあくまで、本番を少し参加しやすくするための準備です。
準備の段階で毎回強い負担を感じてしまえば、本番への不安も大きくなってしまいます。
理想としては、
「これならできそう」
「思ったより簡単だった」
くらいの感覚から始められることです。
最初のハードルは低くて構いません。
例えば、私が関わった子どもの中には、最初は運動会の練習風景を見に行くだけにしたこともあります。
初日は見学する。
次は練習場所まで行ってみる。
その次は列に入ってみる。
さらに、競技の一部分だけやってみる。
このように、子どもが安心してできる範囲から少しずつ参加を広げていきます。
スモールステップについては、別の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事:スモールステップとは何か|できないことを少しずつできる形にする】
「全部参加できるか」ではなく「どの形なら参加できるか」を考える
運動会では、朝から最後まで参加することが難しい子どももいます。
この場合も、
「全部参加できなければ失敗」
と考える必要はありません。
大切なのは、その子どもにとって意味のある参加の形を考えることです。
例えば、
- 徒競走だけ参加する
- 午前中だけ参加する
- 開会式には参加せず、競技から参加する
- 応援席ではなく別の場所で待機する
- 教師と一緒なら競技に参加する
といった方法があります。
目標についても、
安心して達成できる目標
教師と一緒に徒競走へ参加する。
今回の基本目標
自分の競技に参加し、一定時間応援席で過ごす。
チャレンジ目標
一人で徒競走を走る。
というように段階を分けて考えることができます。
まずは「できる形」を作る。
その上で、練習を重ねる中で余裕が出てきたら、少しだけチャレンジしてみる。
この順番の方が、子どもにも大人にも無理がありません。
例えば、教師と手をつないで走れば徒競走を最後まで走れる子どもであれば、まずはそれを成功する形として設定します。
何度か練習するうちに一人でも走れそうであれば、そこから一人で走ることをチャレンジ目標として考えます。
最初から難しい形に合わせるよりも、安心して参加できる土台を作ってから支援を減らす方が、結果として自立につながる場合もあります。

子どもの動きと一緒に「大人の動き」も決める
運動会の支援では、子どもの練習だけでなく、大人の配置を考えることも重要です。
参加競技、学年練習、全体練習の日程が分かったら、演技図や配置図を確認しながら、
「この時間に、この子はどこにいるのか」
を整理します。
そして同時に、
「その場面では、どの大人が支援するのか」
を決めます。
例えば、
- 招集場所までは担任がつく
- 競技中は学年の教師に引き継ぐ
- 競技終了後は支援員が応援席まで戻るのを支援する
といった形です。
子どもの動きと大人の動きをセットで考えておくことで、当日の支援に空白が生まれにくくなります。
人員に余裕があれば、急な対応が必要になったときに動ける職員を設定しておくと安心ですが、学校現場ではそこまで人員に余裕がない場合も多いと思います。
その場合でも、
「誰が・いつ・どこを見るのか」
だけは可能な範囲で明確にしておくことが大切です。
演技図に直接メモを残して共有する
運動会練習では、最初に決めた配置や動きがそのまま本番まで続くとは限りません。
実際に練習をすると、
「ここでは立ち位置を変えよう」
「この列はこっちから入ろう」
「競技後はこちらに移動しよう」
など、細かな変更がたくさん出てきます。
私が実際に行っていたのは、演技図や配置図に直接メモを書き込む方法です。
練習を見ながら、
- 子どもの立ち位置
- 移動する方向
- 変更された動き
- 支援する大人
- 注意して見ておきたい場面
などを書き込みます。
そして、変更された内容を関係する教師や支援員と共有します。
必要に応じて、それらをまとめた配置図をコピーして配布することもありました。
非常にアナログな方法ですが、運動会のように人と場所が複雑に動く場面では、紙の配置図に直接書き込む方法はかなり使いやすいです。
もちろん、これらを一人の教師だけで作成するのは負担が大きいため、学校やチームの実情に応じて仕事を分担することも大切です。
支援員には「具体的に何をお願いするか」を伝える
支援員との連携では、役割を具体的にしておくことも重要です。
学校内で配置方針を確認した上で、支援員には、
「なんとなく様子を見て動いてください」
ではなく、
「当日は赤組の3年生と4年生についてください」
「この競技中は白組1年生の控え席にいる大人が手薄になるので、この時間だけ見てください」
「競技が終わったらAさんを応援席まで一緒に連れてきてください」
というように、具体的な役割を伝えます。
何をすればよいのかが明確な方が、支援する側も動きやすくなります。
また、担任がその場にいない場合でも、同じ方針で支援を続けやすくなります。

支援員や校内の職員との連携については、別の記事でも解説しています。
【関連記事:情緒学級で支援員の先生と連携するときに担任が意識したいこと】
人員配置は学年だけでなく実態から考える
私が勤務していた現場では、結果として1・2年生など低学年にやや多めの人員を配置することがありました。
低学年では、移動や待機、次の行動への切り替えなどで大人の支援を必要とする場面が比較的多かったためです。
一方で、高学年になるにつれて、自分で予定を確認したり、学年の集団と一緒に動いたりできる子どもも増えていきました。
ただし、学年はあくまで一つの目安です。
高学年だから支援が少なくてよいとは限りません。
基本的には、
「この子は、どの場面でどの程度の支援が必要なのか」
を基準に配置を考えます。
特に、子どもだけで過ごすことによって不安が高まる場合には、待ち時間や移動時間にも大人が関われるようにしておく必要があります。
当日は「必要なときに支援する」
練習を重ねて迎えた本番では、必要以上に大人が関わらないことも大切です。
支援が必要な場面では支援する。
しかし、子どもが落ち着いて活動しているのであれば、そのまま見守ります。
大人が常に隣について声をかけ続ける必要はありません。
例えば、練習では教師と一緒に移動していた子どもが、本番では友達と一緒に自然に移動できているのであれば、そのまま任せてよいでしょう。
事前準備の目的は、本番でもずっと大人が支えることではありません。
必要な支援を用意した上で、必要がなくなった部分から支援を減らしていくことも大切です。
休憩や途中離脱も事前に決めておく
当日の支援では、「うまく参加できているとき」だけでなく、「難しくなったとき」の対応も考えておきます。
例えば、
- 疲れたときに休む場所
- 大きな音がつらいときに移動する場所
- 誰と一緒に移動するのか
- どの程度休憩するのか
- 落ち着いたらどこから再参加するのか
- その日は再参加しない場合にどうするのか
などです。
途中で休憩することや、一度競技から離れることを失敗と考える必要はありません。
むしろ、難しくなったときに安全に離れられる方法まで準備しておくことも、参加するための支援の一部です。
「無理になったらどうするか」が分かっていることで、本人が安心してチャレンジできる場合もあります。
行事が終わったら必ず振り返る
運動会が終わったら、できたことを簡単に振り返ります。
見るポイントは、
- どの場面に参加できたか
- 本人が安心して過ごせた場面
- 難しかった場面
- 効果があった支援
- 必要なかった支援
- 次回変えた方がよい支援
などです。
例えば、
「今年は教師と一緒なら徒競走を最後まで走ることができた」
という結果があれば、それは十分な成果です。
次年度には、
「スタートまでは教師と一緒に行き、走るときは一人でやってみる」
という新しい目標につながるかもしれません。
学校行事は毎年行われるものも多いため、今年の経験を次の年につなげることができます。
そのためにも、行事が終わった直後に短い記録を残しておくと役立ちます。

まとめ|「無理なく参加できる形」を先に作る
情緒学級の子どもの学校行事への参加では、「みんなと同じように最後までできること」だけが成功ではありません。
大切なのは、
今のその子どもにとって、どのような形なら安心して参加できるのかを考えることです。
そのためには、
- 子どもの実態を把握する
- その子にとっての成功を具体的にする
- 本人や保護者と参加方法を共有する
- 当日の見通しを持たせる
- スモールステップで練習する
- 子どもの動きと大人の配置をセットで考える
- 必要な支援だけを行う
- 休憩や途中離脱の方法も準備する
- 終了後に振り返り、次の行事につなげる
という流れで支援を組み立てていくと考えやすくなります。
特に運動会のような大きな学校行事では、子どもだけでなく、大人側の準備も参加のしやすさに大きく影響します。
誰がどこで支援するのか。
難しくなったらどこで休むのか。
どこまでできれば今回の目標を達成したと考えるのか。
こうしたことを事前に整理しておけば、当日の支援にも余裕が生まれます。
最初から難しいことに挑戦する必要はありません。
まずは、
「これならできそう」
と思えるところから始める。
その経験を積み重ねながら、子どもと一緒に少しずつ参加の幅を広げていくことが、学校行事を無理なく経験していくための基本だと思います。
【関連記事:情緒学級で子どもの目標をどう立てる?個別の指導計画を日々の支援につなぐ方法】
【関連記事:情緒学級の環境づくり|安心感のある雰囲気を作るために意識したい3つのこと】
行事の「子どもの動き」と「大人の動き」を整理したい方へ
待機・移動・競技・終了後まで、誰がどこで支援し、次に誰へ引き継ぐかを一つの流れで整理できるシートを収録しています。