情緒学級の支援では、「スモールステップ」という考え方がとても大切になります。
スモールステップとは、階段を一段ずつ上がるように、子どもの今の状態に合わせて段階的に進めていく支援のことです。
今できていることは何か。
次にできるようにしたいことは何か。
最終的にはどこを目指したいのか。
その間には、どれくらいの段階がありそうなのか。
どのくらいの時期までに、どこまで進めそうなのか。
こういったことを整理する時に、スモールステップの考え方は役に立ちます。
大切なのは、いきなり最終ゴールを子どもに求めないことです。
大人から見ると「これくらいできるだろう」と思えることでも、その子にとっては大きな不安や負担になっていることがあります。だからこそ、子どもの今の状態をよく見て、無理なく取り組める入口を作ることが重要になります。
まずは「できていること」から始める
スモールステップの基本は、「できていることを認めること」から始まります。
今できていること。
すでに頑張っていること。
昨日より少しよくなったこと。
本人なりに踏みとどまっていること。
そういった部分を大人が見つけて、認めることが出発点になります。
ここで安心感を作っておくと、子どもは「次もやってみようかな」「もう少し進めるかもしれない」と思いやすくなります。
逆に、今の段階でまだ難しいことを無理に求められると、不安や抵抗感が強くなります。
「できないこと」にだけ注目して支援を組むと、子どもからすると苦手なことをやらされ続ける時間になってしまいます。そうなると、挑戦ではなく、失敗体験の積み重ねになってしまうことがあります。
だからこそ、まずは「できること」を一つ以上入れることが大事です。
できることから始める。
その先に、少しだけチャレンジすることを置く。
できたことを一緒に確認する。
この流れを作ることで、子どもは安心して次のステップに進みやすくなります。
発表場面で考えるスモールステップ
例えば、大人数の前に出ることに強い不安がある子どもがいるとします。
その子に対して、いきなりクラス全員の前で発表する機会を設定するのは、負担が大きすぎる場合があります。
もちろん、最終的に人前で発表できるようになることを目指す場面はあります。
しかし、そこにたどり着くまでの段階を考える必要があります。
例えば、次のような流れが考えられます。
まず、発表する内容を担任と一緒に確認する。
次に、担任と一対一で発表の練習をする。
慣れてきたら、少人数の友達の前で練習する。
その後、交流学級での本番を迎える。
このように段階を分けることで、子どもは少しずつ場に慣れていくことができます。
大切なのは、「発表するか、しないか」の二択にしないことです。
発表内容を一緒に考える。
読むだけならできる。
担任の近くならできる。
友達一人になら聞いてもらえる。
録音ならできる。
短い一文だけなら言える。
このように、発表という活動の中にも、細かく分けられる部分はたくさんあります。
教師は、その子にとって「まずできそうなところ」はどこかを見立てていく必要があります。
行事参加で考えるスモールステップ
運動会のような行事でも、スモールステップの考え方は役に立ちます。
行事は、普段と違う流れになります。
場所も変わります。
人も多くなります。
音も大きくなります。
見通しも持ちにくくなります。
そのため、情緒面に不安のある子どもにとっては、大きな負担になることがあります。
例えば、運動会の競技に参加する場合には、次のような段階が考えられます。
教室で競技の説明を聞く。
整列場所や競技の流れを図で確認する。
実際の場所を見に行く。
学年練習に短い時間だけ参加する。
不安なことを共有しながら、少しずつ練習に参加する。
本番を迎える。
もちろん、実際にはもっと細かい段階が必要になることもあります。
最初は見学だけにする。
入場だけ参加する。
競技の一部だけ参加する。
途中でクールダウンの時間を取る。
練習時間を短くして、少しずつ参加時間を伸ばす。
このような方法を取ることもあります。
大切なのは、「みんなと同じように参加すること」だけをゴールにしないことです。
その子にとって意味のある参加の形を探すことも、支援の一つです。
今日は練習場所まで行けた。
説明を聞けた。
整列場所を確認できた。
短い時間だけ参加できた。
本番の雰囲気を知ることができた。
こういった一つ一つも、大切な前進です。
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スモールステップを作る時の2つの観点
スモールステップを作る時は、大きく分けて二つの観点で考えると整理しやすくなります。
一つ目は、時間の長さです。
二つ目は、関わりや取り組みの深さです。
例えば、運動会練習に参加する場合でも、最初から全部の時間に参加する必要はありません。
5分だけ参加する。
説明だけ聞く。
入場の練習だけ参加する。
競技の流れだけ確認する。
できそうな部分だけ参加する。
このように、時間を短くしたり、参加する部分を限定したりすることができます。
また、関わりの深さを調整することもできます。
見学するだけ。
担任と一緒に確認する。
少人数で練習する。
全体練習に少し参加する。
本番に近い形で取り組む。
このように、どのくらい深く活動に関わるかを調整することもできます。
教師は、「どこで切り分けることができるか」「まず最初に取り組めそうなところはどこか」を考える必要があります。
多少チャレンジすることはあってもよいです。
しかし、負担が大きいことや苦手なことだけを取り出して取り組ませると、子どもにとっては苦しい時間になってしまいます。
できることを一つ以上入れる。
その先にチャレンジ項目が見えるようにする。
最初に「これならできそう」と思える入口を作る。
この設計がとても大切です。
子どもが支援の流れをすべて理解している必要はありません。
ただし、「最初はできそう」と思えることは非常に重要です。
入口で心が折れてしまうと、その後にできる活動が入っていたとしても、そこまでたどり着けません。
だからこそ、最初のハードルはできるだけ下げます。
大人から見れば、「こんなの当たり前でしょ」と思えるくらいのことで構いません。
むしろ、最初はそれくらいでよいのです。
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授業設計にもスモールステップは使える
スモールステップの考え方は、個別支援だけでなく、授業設計にも使えます。
授業の最初に取り組むことは、子どもがすらすらできるものが望ましいです。
例えば、簡単な計算、音読、漢字の確認、昨日やった内容の復習などです。
「今日もこれができた」
「昨日やったことを覚えていた」
「すぐに取り組めた」
こうした軽い達成感があると、子どもは授業に入りやすくなります。
ただし、活動の設定には注意が必要です。
例えば、「何分でどこまで解けるか」という活動は、子どもによっては意欲につながります。
一方で、昨日より記録が下がったことに強く落ち込んでしまう子どももいます。
その場合は、達成の基準を少しずらすとよいです。
何問解けたかではなく、決められた時間取り組めたことを認める。
昨日との比較ではなく、今週続けて取り組めたことを認める。
速度ではなく、丁寧に取り組めたことを認める。
このように、子どもの状態に合わせて評価するポイントを調整します。
慣れてきたら、速度や達成数を目標にしてもよいです。
ただし、その場合でも「今日だけの結果」で判断するのではなく、「一週間単位での伸び」や「続けて取り組めたこと」に目を向けるとよいです。
これも、スモールステップの考え方とつながっています。
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できるようになったことに注目する
スモールステップで大切なのは、「できないこと」ではなく、「できること」「できるようになったこと」に注目することです。
教師がこの視点を持ち続けていると、子どもも少しずつ自分の成長に気づきやすくなります。
最初は、自分の成長に気づけない子どももいます。
自分に厳しい基準を課している子どももいます。
少しできたくらいでは、「こんなの意味がない」と思ってしまう子どももいます。
しかし、教師が小さな変化を見つけて言葉にしていくことで、子どもの見方が少しずつ変わっていくことがあります。
また、自分のことには厳しい子どもでも、友達の成長にはよく気づいていることがあります。
「前より早く準備できていた」
「今日は最後まで座っていた」
「さっき自分から言えていた」
「昨日より落ち着いていた」
このように、教師が見逃していた変化に子どもが気づいていることもあります。
できることや成長に注目する視点は、周囲にも広がっていきます。
その意味でも、波及効果は大きいです。
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できたことを見える化する
できるようになったことを見える化することも大切です。
目で見て一発で分かる形にしておくと、子どもが自分の頑張りを認識しやすくなります。
例えば、計算カードに取り組んだら集計表にスタンプを押す。
出席した日にカレンダーへシールを貼る。
課題が終わったらチェックを入れる。
一週間の頑張りを短く振り返る。
このような簡単な方法でも構いません。
普段は当たり前のように取り組んでいることでも、積み上げが見える形になると、子どもが「自分は頑張っているんだな」と気づくきっかけになります。
週末に、今週できたことを一緒に振り返る時間を作ってもよいです。
授業の最後に、今日できたことを一つ確認するだけでもよいです。
課題が全部終わったらスタンプを押す、というような方法でもよいです。
ただし、見える化は細かくやりすぎると、教師側の管理が大変になります。
支援は続けられることが大切です。
シールやスタンプを使ってもよいですが、毎回の管理が負担になるなら、無理に物を使わなくても構いません。
大人からの短い声かけでも十分です。
「さっき自分で始められたね」
「今日は説明を最後まで聞けたね」
「昨日より早く戻ってこられたね」
「少し不安そうだったけど、最後まで参加できたね」
こういった言葉も、子どもにとっては大切な見える化になります。
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一度できても、戻ってよい
スモールステップは、一度進んだら戻ってはいけないものではありません。
情緒面の状態は、その日によって変わります。
睡眠不足。
家庭での出来事。
友達関係。
行事前の緊張。
季節や気温。
予定変更。
体調の変化。
こうした要因によって、昨日できたことが今日も同じようにできるとは限りません。
だからこそ、ステップは固定しすぎない方がよいです。
調子が悪い日は、一つ前の段階に戻す。
参加時間を短くする。
見学に切り替える。
担任と一緒に確認するところから始める。
今日は「その場に行けた」だけでよしとする。
このような調整が必要になることもあります。
戻ることは失敗ではありません。
その日の子どもの状態に合わせて調整することも、支援の一部です。
大切なのは、ステップ通りに進ませることではなく、子どもが安心して次に向かえる状態を作ることです。
教師の力量は「細分化」に出る
スモールステップで重要なのは、子どもの今を見て、次にできるようにしたいこととの間にあるギャップを細かく分けることです。
この細分化ができると、支援はかなり組みやすくなります。
今の状態はどこか。
次の目標はどこか。
その間に、どんな段階があるか。
どこからなら始められそうか。
どこに少しだけチャレンジを入れるか。
どの段階で確認や休憩を入れるか。
こうした見立てを作ることが、教師の大切な役割です。
スモールステップがうまく機能しない時は、課題の切り分けが大きすぎたり、小さすぎたりしていることがあります。
課題が大きすぎると、子どもは取り組めなくなります。
不安が強くなったり、拒否感が出たりすることもあります。
一方で、課題が小さすぎると、簡単すぎてやる気が出ないこともあります。
「こんなのやっても意味がない」と感じる子どももいます。
大事なのは、その子にとってちょうどよい大きさの課題を見つけることです。
少し頑張ればできそう。
最初の一歩は踏み出せそう。
できたら自信になりそう。
でも、負担が大きすぎるわけではない。
そういう課題設定ができると、子どもは前に進みやすくなります。
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できた過程を一緒に喜ぶ
スモールステップでは、結果だけでなく、過程も一緒に喜ぶことが大切です。
最後までできたことだけが価値ではありません。
取り組もうとしたこと。
不安を伝えられたこと。
途中まで参加できたこと。
一度休んで戻ってこられたこと。
昨日より少し早く始められたこと。
自分から助けを求められたこと。
こうした過程にも、大切な意味があります。
子どもにとって、寄り添ってくれる大人がいることは大きな安心感につながります。
「見てもらえている」「分かってもらえている」という感覚があると、次も頑張ってみようという気持ちにつながりやすくなります。
また、できたことや頑張った過程は、同僚や保護者にも良い形で共有できます。
「今日はここまでできました」
「この部分は不安そうでしたが、ここまでは参加できました」
「以前よりも切り替えが早くなっています」
「本人なりに頑張っている場面がありました」
このように共有できると、周囲の大人も子どもの成長を見取りやすくなります。
スモールステップは、子どもを甘やかすためのものではありません。
子どもの今の状態を見て、無理なく挑戦できる形に課題を整えるための考え方です。
いきなり大きな階段を上らせるのではなく、上がれる高さの段差を作る。
できることを土台にして、少しずつ次へ進める。
できたことを一緒に確認し、必要な時には戻りながら進んでいく。
この積み重ねが、子どもの安心感と自信につながっていきます。