情緒学級では、子どもの実態に応じて個別の指導計画を作成します。
しかし、実際に書こうとすると、
- 子どものどの姿を目標にすればよいのか
- どの程度まで具体的に書けばよいのか
- 目標と支援の手立ては何が違うのか
- 書類に書いた内容を日々の支援へどうつなげるのか
と迷うこともあるのではないでしょうか。
個別の指導計画は、書類を完成させることだけが目的ではありません。現在の子どもの姿を捉え、目指す姿を考え、その間をつなぐ支援を整理するためのものです。
大まかな流れは、次のようになります。
現在の実態を捉える
↓
今取り組む課題を絞る
↓
目標とする姿を決める
↓
支援の手立てを考える
↓
日々の姿を記録する
↓
目標や手立てを見直す
本記事では、実態把握で集めた情報を、どのように目標や手立てへつなげればよいのかを中心に解説します。

実態把握の詳しい方法については、関連記事でも解説しています。
【関連記事:情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法】
目標を立てる前に、現在の姿を具体的に捉える
目標を立てるためには、まず現在の子どもの姿を捉える必要があります。
このときに大切なのは、「落ち着きがない」「集中力がない」「コミュニケーションが苦手」といった印象だけで考えないことです。
例えば、「集中することが苦手」という姿について考える場合でも、実際にはさまざまな状態が考えられます。
- 一斉説明を聞いている途中で手遊びが始まる
- 自分で選んだ活動には20分程度取り組める
- 書く課題では数分で手が止まる
- 教師が隣にいると最後まで取り組める
- やることが視覚的に示されていると、一人でも進められる
同じ「集中が難しい」という言葉でも、実際の姿は異なります。
目標につなげるためには、
- どの場面で
- 何に取り組み
- どこまでできて
- どのような支援があれば取り組めるのか
を確認します。
気になる姿については、その場面だけを切り取るのではなく、直前、その場面、直後という流れで見ることも有効です。
例えば、授業中に離席したという姿があった場合でも、離席だけを見ていては、必要な支援を考えにくいことがあります。
- 難しい課題が提示された直後だった
- 予定変更が口頭だけで伝えられていた
- 活動が終わった後に、次に何をするか分からなかった
- 教師に声をかけてもらうことで席に戻れた
といった前後の流れを見ることで、行動が起こりやすい条件や、支援を考えるための仮説を作りやすくなります。
ただし、前後に起きたことが必ず原因であるとは限りません。観察から考えられることを一度仮説として置き、支援を試しながら確かめていく姿勢が大切です。

詳しい見方については、問題となる行動の前後関係を整理する記事も参考にしてください。
【関連記事:情緒学級で問題行動をどう見るか|前後関係から見立てを作るポイント】
すべての課題を目標にする必要はない
子どもの実態を丁寧に見ていくと、気になる姿や今後伸ばしたい力がいくつも見つかります。
しかし、それらをすべて個別の指導計画の目標にする必要はありません。
目標を増やしすぎると、日々の支援が分散し、何を重点的に取り組んでいるのか分かりにくくなります。教師にとっても、記録や評価が難しくなります。
集めた情報の中から、今取り組む課題を絞ることが必要です。
私自身は、次のような点を考えながら優先順位を決めていました。
- 本人が困っていることか
- 本人や保護者が望んでいることか
- 安全や学校生活への影響が大きいか
- 今後の学習や生活の土台になる力か
- 現在の姿から少し先にある目標か
- 学校生活の中で繰り返し取り組む機会があるか
- 教師が現実的に支援できる内容か
教師から見ると気になる姿であっても、本人が困っておらず、現在の生活にも大きな影響がないこともあります。
反対に、外からは目立ちにくくても、本人が強く困っていることもあります。
教師が伸ばしたい力だけで決めるのではなく、本人の思いや保護者の願いも踏まえながら、「今、この子どもにとって何を優先するのか」を考えることが大切です。
目標は「具体的な子どもの姿」で書く
目標は、実際にその姿を見たときに、達成できたかどうかを判断できるように書きます。
一つの基準は、その子どものことを知らない人が読んでも、場面をある程度イメージできるかどうかです。
例えば、次のような目標は、方向性は分かるものの、評価が難しい表現です。
- 友達と仲良くする
- 集中して学習する
- 気持ちを切り替える
- 自分から行動する
- 安全に気をつける
これらを、具体的な場面と行動に置き換えます。
例1:友達との関わり
抽象的な目標:
友達と仲良く関わることができる。
具体的な目標:
休み時間に友達と遊びたいとき、言葉または誘い方カードを使って、相手に自分の希望を伝えることができる。
例2:当番活動
抽象的な目標:
自分から当番活動に取り組むことができる。
具体的な目標:
朝の当番活動で、手順表を確認しながら、三つの仕事を教師の個別の声かけなしで終えることができる。
例3:道具の安全な使用
抽象的な目標:
図工の道具を安全に使うことができる。
具体的な目標:
図工でカッターナイフを使用するとき、教師と確認した三つの約束を守って作業することができる。
例4:援助を求める
抽象的な目標:
分からないときに自分から質問することができる。
具体的な目標:
算数の個別課題で分からない問題があるとき、質問カードを教師に渡して助けを求めることができる。
目標を書く際には、次の要素を意識すると具体化しやすくなります。
場面や条件
+
子どもが取る行動
+
必要に応じて利用できる支援
+
達成の目安
ただし、学校によって個別の指導計画の様式は異なります。これらをすべて一文に詰め込む必要はありません。
少なくとも、「どの場面で、どのような姿が見られるようになることを目指すのか」が読み取れる状態を目指します。
話すことや一人で行うことだけを目標にしない
目標を具体化するときには、教師が考える一つの方法だけを正解にしないことも大切です。
例えば、「困ったときに自分から言葉で質問する」という目標は、一見すると望ましいように見えます。
しかし、子どもによっては、気持ちや困りを言葉にすること自体の負担が大きい場合があります。
その場合は、
- カードを渡す
- 選択肢から選ぶ
- 指差しで示す
- タブレットへ入力する
- 決められた合図を使う
といった方法も考えられます。
言葉で伝える力を少しずつ育てることが必要な場合もありますが、まずは本人が実際に使える方法で困りを伝えられることが重要です。
また、「教師の声かけなしでできること」だけが自立ではありません。
手順表を見る、カードを使う、必要なときに助けを求めるなど、本人が自分で支援を使って活動できることも、自立した姿の一つです。
子どもを固定的なタイプに分けるのではなく、その場面ではどのような情報の受け取り方や表し方が使いやすいのかを考えます。

長期目標と短期目標をつなげる
目指す姿が、現在の子どもの姿から大きく離れている場合は、その間に短期的な目標を置きます。
例えば、長期的には、
学校生活の中で、自分が困っていることを相手に伝え、必要な助けを求められる。
という姿を目指しているとします。
しかし、現在は困ったときに黙って手を止め、教師が近づいて初めて質問できる状態かもしれません。
その場合、最初から「自分から言葉で質問する」ことを求めるのではなく、
算数の個別課題で分からない問題があるとき、質問カードを教師に渡すことができる。
という短期目標を設定できます。
その姿が安定した後に、
- カードと短い言葉を一緒に使う
- 挙手、言葉、カードから自分で方法を選ぶ
- 別の授業や別の教師にも助けを求める
といった方向へ広げることができます。
最終的な姿と現在の姿の間が大きいときは、子どもが成功できる段階に分けて考えます。
スモールステップの詳しい作り方については、関連記事で解説しています。
【関連記事:スモールステップとは何か|できないことを少しずつできる形にする】
支援の手立ては、現在と目標をつなぐ橋である
現在の子どもの姿と、目標とする姿の間には差があります。
その差を埋めるために、教師が現実的に行う支援が「手立て」です。
例えば、次のように整理できます。
現在の姿
算数の個別課題で分からない問題があると、黙ったまま手を止める。教師が近づいて尋ねると、分からないことを伝えられる。
目標とする姿
算数の個別課題で分からない問題があるとき、質問カードを教師に渡して助けを求めることができる。
支援の手立て
- 質問カードを机の決まった位置に置く
- 教師とカードを使う場面を事前に練習する
- 課題を始める前に、困ったときの方法を短く確認する
- カードを使えたときは、教師ができるだけ早く応答する
- カードを使ったこと自体を具体的に認める
このように見ると、目標と手立ての違いが分かりやすくなります。
目標は、子どもにどのような姿が見られることを目指すのかです。
手立ては、その姿につなげるために、教師や周囲の大人が何をするのかです。
個別の指導計画を作成するときには、「毎日声をかける」「カードを使わせる」といった教師側の働きかけだけが目標にならないように注意します。
手立ては、継続して実施できるものにする
効果がありそうな支援であっても、日常的に実施できなければ、個別の指導計画と実際の支援が離れてしまいます。
手立てを考える際には、
- 毎日の学校生活の中で実施できるか
- 特別な準備を続けなくても運用できるか
- 担任以外の教師にも分かるか
- 子ども自身が使い方を理解できるか
- 支援の効果を確認できるか
といった点も確認します。
手立ては、大がかりなものである必要はありません。
例えば、
- 口頭指示を短くする
- 手順をカードにする
- 課題量を調整する
- 活動の終わりを示す
- 選択肢を用意する
- 座席や物の配置を変える
- 助けを求める方法を決める
- 活動前に見通しを確認する
といった小さな工夫も、子どもの姿と目標に合っていれば有効な手立てになります。
目標を立てるときに、評価方法も決めておく
目標と手立てを考えたら、何を見て評価するのかも決めます。
評価時期になってから子どもの様子を思い出そうとしても、印象に強く残っている出来事だけで判断してしまいがちです。
あらかじめ、
- どの場面で確認するのか
- どの行動を記録するのか
- どの支援があればできたのか
- どの程度続けば安定したと判断するのか
を考えておくと、評価しやすくなります。
例えば、先ほどの質問カードの目標であれば、
算数の個別課題で困った場面があったとき、質問カードを使えたかを簡単に記録する。
という方法が考えられます。
毎日長い文章を書く必要はありません。
- 自分から使えた
- 教師の合図で使えた
- 教師がカードを渡した
- 使用しなかった
といった簡単な記号や短いメモでも、一定期間続ければ変化が見えます。
評価するのは子どもだけではない
目標に到達しなかったときに、「子どもができなかった」とだけ考えないことも重要です。
確認したいのは、子どもの姿だけではありません。
- 決めた手立てを教師が実施できていたか
- 手立てを使う機会が十分にあったか
- 子どもが支援の使い方を理解していたか
- 課題が難しすぎなかったか
- 目標が子どもの実態に合っていたか
- 本人にとって意味のある目標だったか
といった点も評価します。
例えば、質問カードを使えなかったとしても、カードが手の届かない場所に置かれていたり、カードを出しても教師がすぐに対応できなかったりすれば、手立てが十分に機能していたとは言えません。
子どもの姿、教師の支援、目標そのものを分けて振り返ることで、次の支援につながる評価になります。
見直しは「日常の微調整」と「学期単位の整理」に分ける
個別の指導計画は、一度作成したら学期末まで変更しないものではありません。
実際に支援を行う中で、
- 支援を強く嫌がる
- かえって混乱が増える
- 課題が難しすぎる
- 簡単すぎて練習になっていない
- 支援を使う場面がほとんどない
- 別の方法の方がうまくいきそう
と分かった場合は、その都度手立てを調整します。
一方で、目標全体や学期の成果については、まとまった時期に振り返る必要があります。
私自身は、学期末の書類作成や通知表の所見、保護者との懇談会に追われる前に、少しずつ見直すようにしていました。
例えば、7月に終業式がある場合は、6月ごろから、
- 設定した目標
- 実施している手立て
- 見られるようになった姿
- まだ難しい姿
- 残りの期間に試したいこと
を軽く確認します。
学期を締める1か月ほど前であれば、必要に応じて手立てを調整し、その結果を確認する時間も確保できます。
また、この時期から整理しておくと、通知表の所見や保護者との懇談、次学期の計画にもつなげやすくなります。
年間を通した仕事の進め方や、学期末に慌てないための準備については、関連記事で詳しくまとめています。
【関連記事:情緒学級担任は大変?経験者が負担を減らす考え方の基本を解説】
担任一人の見立てだけで更新を決めない
子どもの目標や手立てを見直す際は、担任が自分で見立てを作ることが基本になります。
ただし、一人の教師が見ている場面には限りがあります。
情緒学級では落ち着いて過ごしていても、交流学級や専科の授業では違う姿を見せていることがあります。反対に、担任が難しいと感じていることを、別の教師の授業では自然に行えている場合もあります。
私自身は、
- 特別支援学級の他の担任
- 支援員
- 交流学級担任
- 専科教員
- その子どもに関わる教職員
などからも、無理のない範囲で様子を聞くようにしていました。
このときは、目的に応じて聞き方を変えていました。
自分の見立てを伝えたうえで、
私は最近、このような姿が増えたと感じています。授業ではどう見えていますか。
と尋ねることもあります。
一方で、自分の見方に相手を引っ張らないように、
最近、授業ではどのような様子ですか。
と、まず相手の見方を聞くこともあります。
複数の場面で同じ姿が見られているのか、特定の条件でだけ見られるのかを確認することで、目標や手立てを見直しやすくなります。

校内での情報共有や日頃からの関係づくりについては、関連記事を参照してください。
【関連記事1:情緒学級担任が同僚と関係を作るには?相談しやすいチームを作る考え方】
【関連記事2:情緒学級担任と交流学級担任の連携|予定・様子・所見をどう共有するか】
【関連記事3:情緒学級で支援員の先生と連携するときに担任が意識したいこと】
本人や保護者との共有も大切にする
目標は、教師だけの都合で設定するものではありません。
本人が何に困っているのか、何ができるようになりたいのかを確認できる場合は、その思いも大切にします。
子どもの年齢や実態によっては、個別の指導計画の目標をそのまま尋ねることは難しいかもしれません。
その場合でも、
- 学校で困ることはあるか
- もう少し楽にできたらよいことはあるか
- できるようになりたいことはあるか
- どの方法なら取り組みやすいか
といったことを、会話や日々の姿から捉えることはできます。
また、保護者との共有も重要です。
学校で見られる姿と家庭での姿が異なることもあります。長期的な目標や生活に関わる内容については、学校だけで方向を決めず、保護者の願いや考えも確認します。
ただし、いつでもまとまった相談時間を取れるとは限りません。
日頃は子どもの具体的な姿を短く共有し、学期末の懇談会や保護者面談などで、
- 現在の姿
- 取り組んだ支援
- 見られた変化
- 今後の方向性
をまとめて相談すると進めやすくなります。
保護者との関係づくりや、子どもの姿の伝え方については、関連記事で詳しく解説しています。
【関連記事:情緒学級の保護者対応で大切なこと|子どもの頑張りを共有する関係づくり】
目標を達成しても、すぐに次へ進まなくてよい
子どもが目標としていた姿を身につけると、教師は次の目標へ進ませたくなります。
私自身も、子どもが一つのことをできるようになると、すぐに次の段階へ引き上げたいと考える傾向がありました。
しかし、以前、前年度の担任から次のように言われたことがあります。
あの子は十分に伸びてきたけれど、そんなに急がせなくてもよいかもしれません。教師が成長ばかり求めると、子どもはしんどくなってしまいます。
その言葉を受けて、目標を達成したからといって、必ずすぐに難しい課題へ進ませる必要はないと考えるようになりました。
子どもにとっては、非常に頑張って到達した段階かもしれません。
やっと安定してできるようになった直後に、「では次はこれです」と新しい課題を提示され続ければ、達成感を持つ余裕がなくなることもあります。
目標を達成した後には、いくつかの選択肢があります。
- 同じ目標を継続し、安定させる
- 場面や相手を少しずつ広げる
- 本人に必要な別の目標へ移る
- いったん重点目標から外し、できている状態を見守る
教師が考える成長が、本人の現在や将来にとって本当に必要なのか、過剰になっていないかを立ち止まって考えることも必要です。
この判断は、担任一人だけで行うのではなく、本人、保護者、関係する教職員の見方も集めながら考えるとよいでしょう。
個別の指導計画と日々の支援を往復する
個別の指導計画を作成しても、普段の授業や生活の中で意識されなければ、書類だけの計画になってしまいます。
反対に、日々さまざまな支援をしていても、何を目指しているのかが整理されていなければ、支援の方向が分かりにくくなります。
大切なのは、個別の指導計画と日々の支援を行き来することです。
現在の姿を捉える
↓
優先する課題を絞る
↓
目標を具体的な姿で決める
↓
現在と目標をつなぐ手立てを考える
↓
日々の姿を短く記録する
↓
子どもの姿と教師の支援を振り返る
↓
必要に応じて目標や手立てを更新する

最初から完璧な目標や手立てを作る必要はありません。
子どもの姿を見ながら支援を試し、分かったことを個別の指導計画へ戻していきます。
個別の指導計画は、完成させて保管するための書類ではなく、子どもの姿を捉え直し、日々の支援をよりよいものにするための道具です。
現在の子どもの姿と、目標とする姿。その間に、学校生活の中で無理なく実施できる支援を置きます。
このつながりを意識することで、個別の指導計画を、実際の授業や生活場面で機能するものにしやすくなります。