教師の仕事では、相手に分かりやすく伝える力が求められます。
しかし、伝えることと同じくらい重要なのが、相手の話を聴くことです。
子どもの話を聴く。保護者の思いを聴く。同僚の相談を聴く。
対象や場面によって聴く目的は異なりますが、相手との信頼関係を築き、必要な支援や連携につなげるという点では共通しています。
私自身、教師として働く中で、「何を伝えるか」だけではなく、「どのように聴くか」が、その後の関係や支援に大きく影響すると感じる場面が何度もありました。
この記事では、情緒学級担任が子ども・保護者・同僚の話を聴くときに意識したいことを、具体的な場面とともに紹介します。
聴くことは、相手の言うとおりにすることではない
相手の話を聴くことは、相手の主張をすべて肯定したり、要求をそのまま受け入れたりすることではありません。
まずは、
「この人は、何を見て、どのように感じ、どのように考えているのか」
を理解しようとすることです。
例えば、子ども同士のトラブルで、一方の子どもの話を最後まで聴いたとしても、その内容をすべて事実として認定するわけではありません。
保護者の話を丁寧に聴いたとしても、学校として必要な見立てや方針を伝えなくてよいわけではありません。
聴くことは、結論を出す前に、相手の認識や思いを理解するための過程です。
相手を受け止めることと、相手の意見に同意することは分けて考えます。
「聴く」にはいくつかの目的がある
教師が相手の話を聴く目的は、一つではありません。
大きく分けると、次のような役割があります。
- 相手の気持ちや思いを受け止める
- 本人が出来事をどのように認識しているかを知る
- 支援に必要な情報を集める
- 相手が自分の考えや気持ちを整理できるようにする
どの目的で聴いているのかによって、教師の反応や質問の仕方も変わります。
好きなことを話している子どもに対して、細かな事実確認をする必要はありません。
一方、トラブルの状況を確認するときには、気持ちを受け止めるだけでなく、出来事の順序や周囲の状況を整理する必要があります。
すべての場面で同じ聴き方をするのではなく、何のために聴くのかを考えることが大切です。

子どもの好きなことを聴く
子どもとの関係づくりでは、好きなことや興味を持っていることについて聴くのが効果的です。
ゲーム、アニメ、乗り物、生き物、絵、工作など、子どもによって興味の対象はさまざまです。
教師がその分野に詳しければ、話題を広げることができます。
詳しく知らなくても問題ありません。
「それはどんなものなの?」
「どこが一番面白いの?」
「先生は詳しくないから、教えてくれる?」
と尋ねれば、子どもに教えてもらうことができます。
大切なのは、知っているふりをしないことです。
興味がないことをあからさまに示す必要もありません。
教師自身がその対象を好きにならなくても、「この子が何に興味を持っているのかを知りたい」という姿勢は示せます。
自分の好きなことを否定せずに聴いてもらえると、子どもは教師に話しかけやすくなります。
私の場合は、授業や周囲の状況に支障がなければ、学校のタブレット端末などを使って、その場で少し調べることもありました。
後で調べようと思っても忘れてしまうことがあります。
その場で一緒に調べれば、そこからさらに会話が広がることもあります。
子どもの興味を少し知っておくだけでも、日常生活の中で、その子に関係する情報を拾いやすくなります。
関係づくりや教材選びの手掛かりにもなります。
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トラブル時は、まず本人の認識を最後まで聴く
子ども同士のトラブルが起きたときにも、聴く力が重要になります。
まずは、当事者である子どもに、何があったのかを話してもらいます。
子どもの話は、時系列が前後したり、要点がまとまっていなかったりすることがあります。
それでも、最初から教師が細かく口を挟まず、一度最後まで聴くことを意識します。
教師が途中で、
「それは○○さんが先にやったの?」
「あなたも何か言ったんじゃないの?」
と問いかけると、教師の推測に沿って話が変わる可能性があります。
最初は、
「何があったの?」
「それからどうなったの?」
「他に覚えていることはある?」
といった、答えを限定しない質問を使います。
ここで知りたいのは、実際に起こったことをすぐに確定することではありません。
まずは、その子ども本人が、出来事をどのように認識しているのかを知ることです。
一通り話を聴いた後で、
- いつ、どこで起きたのか
- 誰がいたのか
- 何がどのような順番で起きたのか
- 本人が何をしたのか
- どの部分がまだ分からないのか
を整理します。
必要であれば、他の子どもや職員にも状況を確認します。
一人の話を最後まで聴くことと、その話だけで事実を決めることは別です。
事実・気持ち・今後を分けて聴く
トラブルの話を整理するときは、次の三つを分けると分かりやすくなります。
一つ目は、何が起きたのかという事実です。
二つ目は、そのときにどのように感じたのかという気持ちです。
三つ目は、これからどうしたいのかという今後の希望です。
例えば、
「そのとき何があったの?」
「どんな気持ちだった?」
「今、一番困っていることは何?」
「この後どうなれば少し安心できそう?」
と順番に尋ねます。
「この後どうしたい?」と聴くと、自分から謝りたいと言う子どももいます。
一方で、まだ怒りが強かったり、どうしたいのか決められなかったりする子どももいます。
すぐに反省や謝罪へ向かわせるのではなく、
「今はまだ決められない?」
「少し時間を置いてから考える?」
といった選択肢も示します。
気持ちが整理されていない段階で謝罪だけを促しても、表面的なやり取りで終わってしまうことがあります。
不安やネガティブな話が続くときの聴き方
不安や不満など、ネガティブな内容を繰り返し話す子どももいます。
そのような話を聴くことで安心し、気持ちを整理できる子どもは少なくありません。
一方で、ネガティブな話をしている時間だけが、教師と個別に関われる主な機会として固定化していないかを見ることも必要です。
ただし、
「この子は大人の関心を引こうとしている」
と早い段階で決めつけてはいけません。
同じ話を繰り返す背景には、
- まだ気持ちを処理できていない
- 言葉で整理することが難しい
- 不安な出来事が現在も続いている
- 教師に伝わったか確認している
- 支援の方法が合っていない
といった可能性もあります。
まずは、子どもの状態と、その後の行動を記録しながら考えます。
話を聴く時間が長くなりやすい場合は、最初に見通しを示す方法も使えます。
「今は10分間なら話を聴けるよ」
「あと少しで時間になるから、最後に一番伝えたいことを教えて」
と伝えます。
これは、ネガティブな話だから途中で切るという意味ではありません。
子どもに見通しを持たせ、教師が対応できる範囲を分かりやすくするためです。
まだ話す必要がある場合は、
「続きは昼休みに話そう」
「次に話せる時間を一緒に決めよう」
と、次の機会を示します。
無理に明るい話題へ変えない
ネガティブな話を聴いた後に、明るい話題や前向きな行動につなげることが有効な場合もあります。
しかし、必ず最後をポジティブな話で終わらせようとすると、子どもが、
「話を軽く扱われた」
「無理に元気にさせられた」
と感じる可能性があります。
話の終わりには、無理に気分を変えさせるよりも、次の行動を確認します。
「話してくれてありがとう」
「今は少し落ち着いた?」
「この後はどうする?」
「水を飲んでから教室に戻る?」
「先生はこのことを○○先生にも相談するね」
といった形です。
子どもの状態を見ながら、日常の活動へ戻るための橋渡しをします。
深刻な話は一人で抱え込まない
子どもの話の中に、
- 自分や他者を傷つける可能性
- いじめや暴力
- 虐待
- 性的な被害
- 家に帰ることへの強い恐怖
- 命に関わる発言
などが含まれている場合は、通常の相談とは分けて考える必要があります。
時間を区切って終えるのではなく、まず安全を確認します。
そのうえで、管理職、養護教諭、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなど、必要な職員につなぎます。
このような話をされたときに、
「誰にも言わないから話して」
と約束してはいけません。
子どもを守るために共有が必要な場合は、
「あなたを守るために、必要な先生には相談することがあるよ」
と説明します。
担任一人で判断せず、校内のルールに従って組織的に対応します。
聴いた後の姿を記録する
子どもの話を聴いた後は、その後の様子を簡単に記録しておくと、次の支援に役立ちます。
例えば、
- 話す前後で表情がどう変わったか
- 活動に戻ることができたか
- 落ち着くまでにどの程度の時間が必要だったか
- 同じ話がどのような場面で起きやすいか
- どのような聴き方が合っていたか
- 別の支援が必要ではないか
といった点です。
「話を聴いたから落ち着いた」と一度の出来事だけで判断するのではなく、記録を重ねて傾向を見ます。
子どもの話を聴くことも、見立てにつながる大切な情報源です。

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保護者の話を聴く前に、これまでの経緯を確認する
保護者の話を聴くときは、全くの白紙で話を始めるよりも、これまでの経緯を把握しておいた方がよいでしょう。
個別の教育支援計画や過去の記録、前年度からの引き継ぎなどに目を通します。
ただし、書かれていることを現在の保護者の考えとして決めつけてはいけません。
以前とは考えが変わっている場合もあります。
記録は、相手を理解するための参考資料です。
そのうえで、現在の保護者の話を改めて聴きます。
知らないことを知っているふりをする必要はありません。
事前に確認できなかったことや、記録だけでは分からなかったことは、率直に尋ねます。
【関連記事】個別の教育支援計画・指導計画を読むときのポイント|子どもと保護者理解につなげる
保護者が何を求めているのかを確認する
保護者から相談を受けたとき、すぐに解決策を示す必要があるとは限りません。
具体的な方法を知りたい場合もあれば、まずは学校に状況を知ってほしい場合もあります。
教師が相手の意図を推測するだけではなく、直接確認して構いません。
「今日は、まずお話を伺う形でよいでしょうか?」
「学校での見立てもお伝えした方がよいですか?」
「具体的な方法を一緒に考えることをご希望ですか?」
「一番確認したいことは何でしょうか?」
と尋ねることで、話の行き違いを減らせます。
相手の思いを丁寧に聴くことは大切ですが、学校としての見立てや確認できている事実を伝えないことが正しいわけではありません。
まず話を聴き、そのうえで、どこまで学校の考えを伝える必要があるかを判断します。
家庭での様子や有効な関わり方を尋ねる
保護者の話を聴くことは、支援に必要な情報を集める機会でもあります。
例えば、
「学校では、予定が急に変わると不安が強くなる姿が見られます。ご家庭でも似た場面はありますか?」
「ご家庭で落ち着きやすい関わり方はありますか?」
「最近、何か変化したことはありますか?」
「反対に、避けた方がよい声のかけ方はありますか?」
と尋ねます。
家庭でうまくいっている方法があれば、学校でも使えるかを検討します。
ただし、家庭と学校では環境が異なるため、同じ方法をそのまま取り入れられるとは限りません。
家庭での実践を参考にしながら、学校の環境でも無理なく使える支援を考えます。
保護者に、
「学校だけで何とかします」
と伝えるのでもなく、
「家庭でも同じことをしてください」
と求めるのでもありません。
子どもの成長に向けて、家庭と学校で使える情報を共有するという姿勢が大切です。
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担任がすべての答えを出す必要はない
保護者から受ける相談の中には、担任一人では判断しきれないものもあります。
そのような場合に、無理にその場で答えを出す必要はありません。
「校内でも相談したうえで、改めてお伝えします」
と持ち帰ることもできます。
必要に応じて、特別支援教育コーディネーター、管理職、養護教諭、スクールカウンセラーなどと連携します。
ただし、単に他の職員へ話を渡して終わりにするのではありません。
担任が窓口として話を聴き、必要な職員と一緒に対応するという形が望ましいでしょう。
誰とどのように情報を共有するのかについては、校内のルールに従い、必要に応じて保護者にも説明します。
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同僚の話を聴くことも大切な仕事
教師は、子どもや保護者の話を聴くだけではありません。
同僚同士で話を聴き合うことも、学校を安定して運営するうえで重要です。
経験が浅いうちは、自分が相談する側になることが多いでしょう。
自分一人でしばらく考えても解決策が出ない場合は、早めに同僚へ相談した方がよいことがあります。
経験が不足している仕事について、一人で長く悩んでも、有効な方法が思い浮かばないことはあります。
そのようなときに、
「この場面でどう対応していましたか?」
「似たケースを経験したことはありますか?」
と尋ねることで、具体的な手掛かりが得られます。
一方、自分が話を聴く側に回ることもあります。
同僚との会話の中で、悩みや迷いが話題に上がった場合は、一度作業の手を止めて話を聴くことも大切です。
手を止め、相手の方を見るだけでも、
「今、あなたの話を聴いています」
という姿勢が伝わります。
ただし、相手によっては、正面から構えて聴かれるとかえって話しにくい場合もあります。
距離感は相手に合わせます。
少なくとも、相手が話している途中で、すぐに自分の経験や解釈へ話をすり替えないようにします。
同僚が助言を求めているとは限らない
同僚から相談を受けたときも、すぐに解決策を示す必要があるとは限りません。
まず、
「今は話を聴く方がいい?」
「それとも、一緒に方法を考えた方がいい?」
と確認するとよいでしょう。
話しているうちに自分で考えが整理される人もいます。
助言を求めている場合は、その後で意見を伝えます。
勤務中で十分な時間が取れない場合は、
「今は5分なら聴けるよ」
「続きは放課後でもいい?」
と調整して構いません。
聴く側が無理をして抱え込むことも、長く続けられる関係にはつながりません。
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聴くときに意識したい基本
子ども・保護者・同僚のいずれを相手にする場合でも、基本となる聴き方には共通点があります。
最初から結論を出そうとしない
相手が話し終わる前に、指導、助言、反論へ進まないようにします。
途中で結論を決めてしまうと、その結論に合う情報だけを拾いやすくなります。
短い相づちを使う
「うん」
「そうだったんだね」
「それから?」
「もう少し教えて」
といった短い言葉で十分です。
大げさな反応をする必要はありません。
相手の言葉を短く返す
「急に予定が変わって嫌だったんだね」
と返すことで、話を理解できているか確認できます。
ただし、決めつけにならないように、
「急に予定が変わったことが嫌だったのかな?」
と尋ねる形も使います。
最初は答えを限定しない質問をする
「何があったの?」
「そのときどうしたの?」
「その後はどうなったの?」
と尋ねます。
「○○さんに叩かれたの?」
と最初から答えを限定すると、聴き手の推測が入りやすくなります。
沈黙をすぐに埋めない
子どもも大人も、考えながら話していることがあります。
相手が黙ったからといって、すぐに次の質問を重ねる必要はありません。
少し待つことで、相手自身の言葉が出てくることがあります。
最後に要点と次の行動を確認する
話を聴いた後は、
「今日は、○○が一番困っていたということで合っている?」
「先生はこの後、△△先生にも確認するね」
「次は明日の昼休みに話そう」
と整理します。
聴いて終わりではなく、必要な支援や行動へつなげます。

聴く力は、相手と一緒に次へ進むための技術
聴くことは、相手の話を黙って受け止め続けることではありません。
相手が何を見て、何を感じ、何を考えているのかを理解したうえで、必要な支援、指導、情報共有へつなげるための技術です。
子どもの好きなことを聴けば、関係づくりの手掛かりになります。
トラブル時の話を丁寧に聴けば、本人の認識と実際の出来事を整理できます。
保護者の話を聴けば、家庭での様子や願いを踏まえた支援を考えられます。
同僚の話を聴けば、一人で抱え込まず、組織として子どもを支えることにつながります。
伝えることと聴くことは、どちらか一方だけで成り立つものではありません。
まず相手の話を聴き、そのうえで必要なことを伝える。
この往復を丁寧に行うことが、情緒学級担任としての関係づくりと支援の土台になります。