この記事では、「学校現場における特別支援教育の経験が少なくて不安な先生」や「情緒学級について知りたい先生」に向けて、情緒学級の基本的なイメージをお伝えします。
細かい制度上の定義や分類については、できるだけ専門的な言葉を減らして書いています。
そのため、この記事では厳密な制度説明よりも、
「情緒学級って、ざっくりどういう学級なのか」
「どのような子どもが在籍しているのか」
「担任はどのように一日を回しているのか」
といった、現場で働く先生が最初に知っておきたい全体像をつかむことを目的にしています。
もちろん、制度上の正確さが不要ということではありません。
ただ、特別支援教育に初めて関わる先生にとって、最初から細かい制度や用語をすべて理解しようとすると、かえって全体像が見えにくくなることもあります。
この記事では、まず荒くてもよいので、情緒学級のイメージを持つことを優先して進めていきます。
情緒学級とは?
情緒学級とは、正式には「自閉症・情緒障害特別支援学級」と呼ばれる学級です。
ざっくり言うと、対人関係、集団生活、気持ちの切り替え、環境への適応などに難しさがあり、通常学級だけでは十分な学びや安心した学校生活を作りにくい子どもたちのための学級です。
日常会話では、「情緒が不安定」という言葉を使うことがあります。
しかし、学校現場でいう「情緒障害」や「自閉症・情緒障害特別支援学級」は、単に気分の浮き沈みがあるとか、感情的になりやすいという意味ではありません。
本人の努力不足やわがままというよりも、本人の特性や心理的な要因などによって、学校生活や集団生活への適応に困難が生じている状態として捉えた方が近いです。
たとえば、次のような困り感が見られることがあります。
・集団の中で過ごすことに強い疲れや不安を感じやすい
・予定の変更や急な指示に混乱しやすい
・友達との距離感や関わり方がうまくつかみにくい
・気持ちの切り替えに時間がかかる
・刺激の多い環境で集中しにくい
・自分の思いを言葉で伝えることが難しい
・通常学級の一斉授業では力を発揮しにくい
もちろん、すべての子どもにこれらが当てはまるわけではありません。
情緒学級に在籍する子どもたちは、一人ひとり困り感も得意なことも違います。
そのため、「情緒学級の子どもはこういう子」と一括りに考えるよりも、「その子は何に困っていて、どのような環境なら学びやすいのか」を見ることが大切です。
特別支援学級の中での情緒学級の位置づけ
小学校や中学校には、通常学級とは別に、特別支援学級が設置されていることがあります。
特別支援学級には、知的障害、自閉症・情緒障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害など、いくつかの種別があります。
その中の一つが、自閉症・情緒障害特別支援学級です。
現場では、これを短く「情緒学級」と呼ぶことが多いです。
ただし、正式名称に「自閉症」と「情緒障害」の両方が入っていることからも分かるように、情緒学級は「気持ちのコントロールが難しい子だけの学級」ではありません。
自閉症スペクトラムの特性がある子、対人関係に難しさがある子、不安が強い子、集団生活で疲れやすい子など、さまざまな実態の子どもが在籍しています。
ここを雑に理解すると、
「情緒学級=荒れる子の学級」
「情緒学級=わがままな子を落ち着かせる場所」
のような誤解につながってしまいます。
しかし、実際にはそうではありません。
情緒学級は、子どもを通常学級から切り離すための場所ではなく、その子が安心して学び、自分の力を発揮しやすくするための学級です。
情緒学級ではどのように過ごすのか?
ここからは、小学校における情緒学級をイメージしながら説明します。
まず、特別支援学級は少人数の学級です。
1学級の人数は最大8人が基準とされています。
また、通常学級のように「1年1組」「2年1組」のように学年ごとに分かれているとは限りません。
情緒学級では、1年生から6年生までの子どもが、同じ学級に在籍することもあります。
つまり、担任の先生は、学年も実態も異なる子どもたちを同時に見ることになります。
ここだけ聞くと、かなり大変そうに感じるかもしれません。
実際、大変な場面はあります。
ただし、情緒学級の子どもたちが、朝から帰りまでずっと同じ教室に全員そろっていて、担任がすべてを一人で対応し続ける、というわけではありません。
児童の実態や学校の体制にもよりますが、交流学級で授業を受けたり、支援員の先生や他の先生と分担したりしながら、一日を組み立てていくことが多いです。
授業はどう進めるのか?
情緒学級の授業では、通常学級と同じ教科書を使うことが多いです。
知的障害特別支援学級とは異なり、情緒学級に在籍する子どもの中には、学習内容そのものは通常学級と同じ進度で進められる子もいます。
もちろん、学習の得意不得意は一人ひとり違います。
ただ、情緒学級では、学習内容を大きく下げるというよりも、学び方や環境を調整することで、その子が力を発揮しやすくすることが多いです。
通常学級の授業は、基本的に大人数に向けた一斉授業です。
一方、情緒学級の授業は、個別指導の塾に近いイメージがあります。
担任が子ども一人ひとりの課題や進度を見ながら、必要に応じて声をかけたり、説明したり、見通しを持たせたりします。
ただし、最大8人の子どもがいて、学年も教科も進度も違う場合、担任が全員に同時に個別指導をすることはできません。
そのため、実際の授業では、
「先生と一緒に学習する時間」
「自分で課題に取り組む時間」
「待つ時間」
「交流学級に行く時間」
などを組み合わせながら、一コマの授業を作っていきます。
たとえば、45分の授業の中で、ある子には最初の10分で新しい内容を説明し、その後はプリントに取り組んでもらう。
その間に、別の子の音読を聞いたり、算数のつまずきを見たりする。
さらに別の子は、すでに自分で進められる課題に取り組んでいる。
このように、情緒学級の授業は「一斉に同じことをする」というよりも、「個別の動きを組み合わせて一つの時間を作る」ことが多いです。
ここが、通常学級との大きな違いです。
【関連記事】情緒学級の授業はどう回す?45分を安定させる基本テンプレート
交流学級とは?
情緒学級に在籍している子どもは、すべての授業を情緒学級で受けるとは限りません。
同じ学年の通常学級で授業を受けることもあります。
この通常学級のことを、学校現場では「交流学級」と呼ぶことが多いです。
たとえば、情緒学級に在籍している4年生のAさんが、体育や音楽は4年2組で受ける、というような形です。
どの授業を交流学級で受けるかは、その子の実態によって異なります。
本人の得意不得意、集団での過ごしやすさ、教科の特性、保護者の意向、担任の見立て、交流学級担任との相談などを踏まえて決めていきます。
情緒学級に在籍する子どもの中には、通常学級の学習内容についていける子も多くいます。
そのため、体育、音楽、図工、理科、社会など、本人が参加しやすい教科から交流を進めることもあります。
交流学級でうまく参加できる経験が増えると、本人の自信につながることもあります。
また、将来的に通常学級への転籍を考える場合にも、交流学級での様子は大切な判断材料になります。
ただし、交流学級に行くことが常に良いとは限りません。
大人数の刺激で疲れやすい子もいます。
友達との関係で不安が強くなる子もいます。
学習内容は理解できても、集団の空気やスピードについていくことに大きな負担を感じる子もいます。
そのため、交流学級は「行けるだけ行けばよい」というものではありません。
その子にとって、どの場面なら力を発揮しやすいのか。
どの場面では支援が必要なのか。
どのくらいの時間なら無理なく参加できるのか。
そうしたことを見ながら、少しずつ調整していくことが大切です。
情緒学級の担任は大変なのか?
情緒学級の担任になった先生が気になることの一つに、
「情緒学級の担任は大変なのか」
「自分にできるのか」
「一日中、子ども対応に追われるのではないか」
という不安があると思います。
結論から言うと、大変な場面はあります。
ただし、担任がすべてを一人で抱え込む必要はありません。
むしろ、情緒学級を安定して回すためには、一人で抱え込まないことが大切です。
情緒学級では、担任の先生だけでなく、交流学級の先生、特別支援学級の他の担任、支援員の先生、養護教諭、管理職、保護者など、さまざまな人と連携しながら子どもを支えていきます。
担任の役割は、すべての支援を自分一人で行うことではありません。
子どもの実態を見取り、必要な支援を整理し、関係する人たちと情報共有しながら、その子にとって学びやすい環境を作っていくことです。
もちろん、最初からうまくできるわけではありません。
特別支援教育の経験が少ない先生にとっては、分からないことも多いと思います。
しかし、子どもの実態を知ること。
保護者の思いを知ること。
交流学級の先生と話すこと。
同じ特別支援学級の先生に相談すること。
支援員の先生と日々の様子を共有すること。
そうした積み重ねによって、少しずつ見通しが持てるようになります。
情緒学級の担任として大切なのは、「自分が全部なんとかしなければ」と思い込みすぎないことです。
やるべきことはやる。
でも、周りの力を借りた方が子どものためになることは、ためらわずに分担する。
この感覚を持てるようになると、情緒学級の仕事はかなり整理しやすくなります。
【関連記事】情緒学級担任の役割とは?|子ども・保護者・学校をつなぐ仕事
情緒学級を見るときに大切な考え方
情緒学級の子どもを見るときに大切なのは、表に出ている行動だけで判断しないことです。
たとえば、授業中に立ち歩く。
友達とのトラブルが多い。
急な予定変更で怒ってしまう。
なかなか教室に入れない。
一見すると、「困った行動」に見えるかもしれません。
しかし、その行動の背景には、本人なりの理由があることが多いです。
見通しが持てなくて不安なのかもしれません。
刺激が多くて疲れているのかもしれません。
言葉でうまく伝えられないのかもしれません。
失敗への不安が強いのかもしれません。
友達との距離感が分からず、結果的にトラブルになっているのかもしれません。
もちろん、すべての行動をそのまま認めればよいということではありません。
学校は集団生活の場なので、身につけていく必要のあるルールや行動もあります。
ただ、その子の行動を単に「わがまま」「やる気がない」「迷惑」と捉えてしまうと、支援の方向を間違えやすくなります。
大切なのは、
「何ができていないのか」
だけではなく、
「なぜ難しいのか」
「どの環境ならできるのか」
「どの支援があれば参加しやすいのか」
を見ることです。
この視点を持てるかどうかで、情緒学級の担任としての動きやすさはかなり変わります。
【関連記事1】情緒学級の関係性づくり|できたことを一緒に喜ぶことから始める
【関連記事2】情緒学級の実態把握|子どもの姿を記録して見立てを作る方法
【関連記事3】情緒学級の支援|まず子どもの何を見るのか
まとめ
今回は、情緒学級とは何かについて、初めて関わる先生にも分かりやすいように、ざっくりと説明しました。
情緒学級とは、正式には「自閉症・情緒障害特別支援学級」と呼ばれる学級です。
対人関係、集団生活、気持ちの切り替え、環境への適応などに難しさがあり、通常学級だけでは十分な学びや安心した学校生活を作りにくい子どもたちが在籍しています。
ただし、情緒学級は「荒れる子の学級」でも、「通常学級から切り離す場所」でもありません。
子どもが安心して学び、自分の力を発揮しやすくするための学級です。
担任としては、一人で全部を抱え込むのではなく、交流学級、支援員、保護者、校内の先生方と連携しながら、その子に合った環境を整えていくことが大切です。
最初から完璧にできる必要はありません。
まずは、子どもの実態を知ること。
その子が何に困っているのかを見ること。
そして、周りの先生と相談しながら、少しずつ支援の形を作っていくこと。
そこから始めれば十分です。
今後の記事では、より具体的に、
・情緒学級の4月スタートで何をすればよいのか
・教室環境をどう整えるのか
・交流学級とどう連携するのか
・保護者対応で何を意識するのか
・通常学級から情緒学級への転籍、情緒学級から通常学級への転籍をどう考えるのか
といった内容についても書いていきます。
まずはこの記事で、「情緒学級とはどういう場所なのか」の大まかなイメージを持っていただけたら嬉しいです。
参考情報
ホームページ(インターネット上の資料)
文部科学省資料:特別支援教育の現状
文部科学省:特別支援教育関係資料(PDF)
特別支援教育のトビラ:自閉症・情緒障害特別支援学級