情緒学級の環境づくりで大切なのは、教室をきれいに飾ることではありません。
もちろん、教室が整っていることは大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、子どもが「どこで何をすればよいのか」「次に何をするのか」「自分の物をどこに置くのか」が分かる教室にすることです。
情緒学級に在籍する子どもの中には、予定の変更、曖昧な指示、物の多さ、周囲からの刺激によって、不安定になりやすい子もいます。
そのため、教室環境を整えることは、単なる整理整頓ではありません。
子どもが迷いにくくなる。
余計な刺激を受けにくくなる。
教師が何度も注意しなくて済む。
支援員や他の先生も動きやすくなる。
こうした状態を作るための、かなり重要な支援の一つです。
この記事では、情緒学級の教室環境づくりについて、初めて担任する先生にも使いやすいように、実務的な視点で整理していきます。
環境づくりの基本は「迷わない教室」を作ること
情緒学級の環境づくりでまず意識したいのは、「迷わない教室」を作ることです。
子どもが教室の中で迷う場面は、意外とたくさんあります。
たとえば、
・何をすればよいか分からない
・どこに物を置けばよいか分からない
・次に何があるか分からない
・どこまでやれば終わりなのか分からない
・触ってよい物と触ってはいけない物が分からない
・困ったときにどうすればよいか分からない
こうした「分からない」が増えるほど、子どもは不安定になりやすくなります。
もちろん、すべての子どもが同じように反応するわけではありません。
ただ、情緒学級では、曖昧さや見通しのなさが負担になりやすい子がいます。
だからこそ、教室環境の中で、できるだけ迷う場面を減らしておくことが大切です。
これは、子どもを甘やかすということではありません。
子どもが自分で動きやすくなるように、必要な手がかりを先に用意しておくということです。
たとえば、朝の支度の流れが黒板に示されている。
自分の荷物を置く場所が決まっている。
今日の予定が見える。
使った物を戻す場所が分かる。
授業が終わった後に何をするかが分かる。
こうした仕組みがあるだけで、教師が毎回細かく指示しなくても、子どもが自分で動きやすくなります。
情緒学級の環境づくりは、教師の指示を増やすためではなく、むしろ指示や注意を減らすために行います。
子どもが迷わず動ける。
大人も支援しやすい。
そのような教室を作ることが、環境づくりの基本です。
教室前面はできるだけシンプルにする
まず意識したいのは、教室前面をできるだけシンプルにすることです。
教室前面とは、黒板周りや教師用机の周辺など、子どもが授業中によく見る場所です。
ここに情報が多すぎると、授業中に子どもの注意が散りやすくなります。
通常学級では、学級目標、係活動、掲示物、作品、予定、連絡などが前面にたくさん貼られていることもあります。
しかし、情緒学級では、前面に貼るものをかなり絞った方がよいです。
特に授業中に見る黒板周りは、その時間に必要な情報だけにするのが基本です。
たとえば、
・今日の授業の流れ
・今やること
・終わったらやること
・必要な持ち物
・注意して見るポイント
などです。
反対に、授業に関係のない掲示物や作品、カレンダー、写真などは、できるだけ前面には貼らない方がよいです。
作品やカレンダーなどは大切な掲示物ですが、掲示するなら教室背面や側面に回す方が使いやすいことが多いです。
教室前面は、子どもが「今、何を見るべきか」が分かる場所にします。
ここで大切なのは、教室を寂しくすることではありません。
子どもが集中しやすいように、情報量を整理するということです。
シンプルさが大事です。
先生のセンスで教室をきれいに飾ることよりも、子どもが何を見ればよいか分かることの方が大切です。
黒板も同じです。
黒板には、基本的にその授業で使う情報だけを出します。
授業の流れをカードにしてマグネットで貼れるようにしておくと、毎時間使いやすくなります。
国語や算数など、ある程度流れが決まりやすい授業では、
・今日のめあて
・音読
・考える時間
・プリント
・丸つけ
・終わった後にやること
のような流れを、カードで示すこともできます。
子どもの実態によっては、授業前にそのカードを貼る係を任せてもよいです。
ただし、これも無理にやらせる必要はありません。
その子ができることから少しずつ任せていくことが大切です。
予定を見えるようにする
情緒学級では、「予定の見える化」がとても重要です。
今日、何をするのか。
次に何があるのか。
いつ交流学級へ行くのか。
いつ情緒学級に戻ってくるのか。
明日は何があるのか。
こうしたことが見えるだけで、子どもは安心しやすくなります。
逆に、予定が見えない状態が続くと、不安になったり、切り替えが難しくなったりすることがあります。
特に情緒学級では、同じ教室にいても、子どもごとに予定が違うことがあります。
たとえば、同じ時間に、
Aさんは交流学級で体育。
Bさんは情緒学級で算数。
Cさんは支援員の先生と個別課題。
ということもあります。
そのため、予定を担任の頭の中だけで管理するのは、あまりおすすめしません。
担任だけが分かっている状態だと、子どもも支援員の先生も交流学級の先生も動きにくくなります。
予定は、できるだけ見える形にしておくとよいです。
たとえば、
・一日の予定表
・児童ごとの時間割
・交流学級へ行く時間
・今日の予定と明日の予定
・終わった活動が分かるカード
・予定変更を示すスペース
などを用意します。
大きなホワイトボードやマグネットボードを使って、一日の予定を示す方法もあります。
児童ごとに予定が異なる場合は、名前ごとの予定表があると便利です。
「今日の予定」だけでなく、「明日の予定」も分かるようにしておくと、見通しを持ちやすい子もいます。
下校前に、子どもと一緒に明日の予定を確認する。
高学年の子どもが、明日の予定カードを貼る。
自分の交流予定を確認してから帰る。
こうした活動は、予定を把握する練習にもなります。
もちろん、すべての子どもに無理にやらせる必要はありません。
予定を確認すること自体が負担になる子もいます。
その場合は、教師が一緒に確認したり、必要な部分だけ伝えたりすればよいです。
大切なのは、予定が「先生の頭の中だけ」にある状態を避けることです。
予定が見えると、子どもが安心しやすくなります。
支援員の先生も動きやすくなります。
交流学級との連携もしやすくなります。
予定表は、子どものためだけではなく、学級を支える大人全員のための道具でもあります。
【関連記事】情緒学級で子どもに見通しを持たせる支援|予定・ゴール・困った時の動き方を示す
物の場所を決める
教室環境づくりでは、物の場所を決めることも大切です。
物の場所が決まっていない教室では、子どもも教師も迷います。
そして、迷いが増えるほど、注意や指示も増えます。
「それはどこに置くの?」
「なんでここに置いたの?」
「勝手に触らないで」
「誰のプリント?」
「そのペンはどこから持ってきたの?」
こうしたやり取りが増えると、子どもも教師も疲れます。
だからこそ、最初から物の置き場所を分かりやすくしておくことが大切です。
確認したいのは、たとえば次のような場所です。
・児童ごとのロッカー
・ランドセルや手提げの置き場所
・連絡帳を出す場所
・宿題やプリントを入れる場所
・文房具の置き場所
・教材の置き場所
・提出物のかご
・教師用の物の置き場所
特に、児童ごとのロッカーや持ち物置き場ははっきりさせておきます。
荷物が混ざると、トラブルの原因になります。
「これは誰の物か」
「どこに戻せばよいのか」
「自分の物はどこにあるのか」
が分かるだけで、子どもはかなり動きやすくなります。
プリントや配布物についても、児童ごとのかごを用意しておくと便利です。
学年が異なる子どもが同じ教室にいる場合、配るプリントもそれぞれ違うことがあります。
その場で毎回配るよりも、児童ごとのかごに入れておき、「自分のかごを確認する」という流れにした方が、お互いに楽になることがあります。
ただし、個人情報を含む書類や大切な資料は、子ども任せにせず、教師が直接渡す方が安全です。
文房具や教材についても、置き場所を決めておきます。
たとえば、ペンは常時5本まで。
このスペースに置く。
使ったら同じ場所に戻す。
なくなったらすぐ分かる。
このように数や場所を決めておくと、大人も子どもも管理しやすくなります。
物が雑多に置かれていると、管理がしにくくなります。
管理がしにくいと、探す時間が増えます。
探す時間が増えると、授業や支援の流れも止まりやすくなります。
情緒学級では、こうした小さな混乱が積み重なることで、子どもが不安定になることもあります。
だからこそ、物の場所を決めることは、単なる整理整頓ではありません。
子どもが迷わず動くための支援です。
また、教師用の物は、子どもが勝手に触れない場所に置くことも大切です。
触ってほしくない物を出しっぱなしにしておいて、触った後で叱るのは、あまりよい形ではありません。
最初から触らなくて済む環境を作っておくことも、担任の仕事です。
子どもに余計な失敗をさせない。
この視点は、情緒学級の環境づくりではかなり大切です。
余白のある座席・スペース配置にする
情緒学級では、座席配置やスペースの取り方も重要です。
通常学級よりも少人数であるため、教室を広く使える場合も多いです。
その場合は、できるだけ余白のある配置にするとよいです。
机同士を近づけすぎない。
刺激し合いやすい子ども同士は席を離す。
一人で学習に集中しやすい配置にする。
教室の後方や隅にスペースを残す。
このような工夫が考えられます。
情緒学級では、子ども同士の距離が近すぎることで、トラブルが起きやすくなることがあります。
もちろん、子ども同士の関わりをすべて避ける必要はありません。
友達と関わる経験も大切です。
ただし、4月の段階では、無理に距離を近づけすぎるよりも、安心して過ごせる配置を優先した方がよいことが多いです。
刺激を受けやすい子。
周りの動きが気になりやすい子。
友達に話しかけすぎてしまう子。
近くにいる相手とトラブルになりやすい子。
こうした実態を見ながら、座席を調整していきます。
また、教室内に余白があると、クールダウンにも使いやすくなります。
クールダウンとは、子どもが不安定になったときに、少し落ち着くための時間や場所を確保することです。
別室が使える場合もありますが、いつも別室があるとは限りません。
教室の隅、後方、パーテーションの内側、少し離れた席など、教室内で落ち着ける場所を作っておくと助けになることがあります。
ただし、クールダウンスペースは罰の場所にしないことが大切です。
「悪いことをしたから行く場所」ではなく、「落ち着くために使う場所」として扱います。
そのためにも、普段からその場所の意味を丁寧に伝えておく必要があります。
余白は、何も置いていない無駄なスペースではありません。
支援を調整するためのスペースです。
年度の途中で、子どもの実態に合わせて机の配置を変えたり、個別対応の場所を作ったり、クールダウンの場所を調整したりすることもあります。
最初から教室を物で埋めすぎると、後から支援を変えにくくなります。
だからこそ、4月の教室づくりでは、余白を残しておくことが大切です。
教師がいなくても動ける仕組みを作る
情緒学級の環境づくりで最終的に目指したいのは、子どもが少しずつ自分で動けるようになることです。
もちろん、最初から一人でできる必要はありません。
初めは教師が一緒にやる。
手順を見せる。
声をかける。
一緒に確認する。
その上で、少しずつ手を離していきます。
たとえば、朝の支度です。
登校したら何をするのか。
ランドセルをどこに置くのか。
連絡帳をどこに出すのか。
宿題をどこに入れるのか。
健康観察や提出物はどうするのか。
これらを毎朝教師が一つずつ声をかけていると、教師の負担はかなり大きくなります。
また、子どもも「先生に言われたらやる」という形になりやすくなります。
そこで、朝の支度の流れを黒板や掲示物で示しておきます。
文字だけでは分かりにくい場合は、写真やイラストを使います。
「1. ランドセルを置く」
「2. 連絡帳を出す」
「3. 宿題をかごに入れる」
「4. 名札をつける」
「5. 朝の課題をする」
のように、順番が見えるようにします。
最初は教師が一緒に確認します。
慣れてきたら、掲示を見ながら自分で進めるようにします。
さらに慣れたら、教師は少し離れて見守ります。
このように、環境を使って少しずつ自立につなげていくことが大切です。
授業準備も同じです。
「次は国語だから、教科書とノートを出す」
これを毎回教師が声かけするのではなく、時間割や準備物が見えるようにしておきます。
「次の授業」
「必要な物」
「準備できたら座る」
といった流れが分かると、子どもは自分で動きやすくなります。
帰りの支度も同じです。
何をランドセルに入れるのか。
連絡帳を確認したか。
宿題を持ったか。
水筒や上着を忘れていないか。
こうしたことも、チェックリストや掲示で見えるようにできます。
大切なのは、教師がいつまでも全部を言い続けないことです。
もちろん、急に手を離してはいけません。
できるようになるまでは一緒にやる必要があります。
しかし、最終的には、子どもが自分で確認し、自分で動けるようにすることを目指します。
子どもが一人でできることが増えるほど、教師の負担も減ります。
教師の負担が減ると、子どもを見る余裕が生まれます。
子どもを見る余裕が生まれると、次にどの支援が必要かを考えやすくなります。
つまり、子どもが自分で動ける環境は、子どものためだけでなく、教師がよりよい支援を考えるためにも大切です。
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まとめ
情緒学級の環境づくりは、教室をきれいに飾ることではありません。
子どもが迷わず、安心して、自分で動きやすくなる教室を作ることです。
そのために大切なのは、次のような視点です。
・予定が分かる
・物の場所が分かる
・自分の居場所がある
・余白がある
・教師がいなくても少しずつ動ける
教室前面はシンプルにする。
予定を見えるようにする。
物の置き場所を決める。
座席やスペースに余白を持たせる。
朝の支度や授業準備を、子どもが自分で確認できるようにする。
こうした一つ一つの工夫は、派手ではありません。
しかし、情緒学級ではとても大切です。
教室環境が整っていると、不要な注意や指示が減ります。
子どもが自分で動ける場面が増えます。
支援員や他の先生も動きやすくなります。
そして、教師と子どもがよい関わりを持てる時間も増えていきます。
環境づくりで迷ったときは、
「これは子どもが迷わず動く助けになるか」
「これは余計な刺激を減らすことにつながるか」
「これは教師が注意しなくても済む仕組みになっているか」
「これは子どもが少しずつ自分でできるようになることにつながるか」
という視点で考えてみるとよいです。
情緒学級の環境づくりは、担任のセンスで飾るものではありません。
子どもが安心して過ごし、自分で動けるようになるための設計です。
最初から完璧に作り込む必要はありません。
まずはシンプルに整える。
必要なものだけを置く。
予定と物の場所を分かりやすくする。
そして、子どもの実態を見ながら少しずつ調整していく。
その積み重ねが、落ち着いて過ごしやすい情緒学級の土台になります。